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第七百六十八話_short 夢のような人生 [literary(文学)]

「あなたはとても賢い子。一生懸命勉強するのよ」

 母はいつもそんなことを言っていた。

 必ず偉い人になる力を持っているのだから、勉強して、努力して、人にやさしく、世の中の役に立つことを考えなさい。そうすればあなたは必ず世の中を背負って立つ人間になる。あなたには夢のような未来が待っているのよ。

 そう言われ続けた僕は母の言葉を百パーセントと信じて生きてきた。バカみたいと思うかもしれないが、人間ってそんなものだと思う。実際僕は常に真面目に学び、働き、大人になってからはそれなりの仕事を得て、それなりの地位を得た。いつも人の気持ちも考え、そのおかげでたくさんの友人を得ることもできた。

 母が言ったように世の中を背負って立つような人間になれたかというと、そんな大それたものではないが、少なくとも近隣の人々からは信頼され頼られる程度の人間にはなったのだろうと思う。

 大金持ちにも会社の社長にもなれなかったけれども、こうして人並みに生きてこられたのは、もうとっくの昔に亡くなってしまった母のおかげだと思っている。あの言葉がなかったら、僕はもう少しつまらない人間になっていたかもしれないからだ。

 とはいえ、あの頃の母よりもふた回り以上も歳を重ねてしまったいまになって、母が言った「夢のような未来」を僕は得ることができたのだろうかと疑問に思うようになった。母が想像していた僕の夢のような未来とはどういうものだったのだろう。僕は努力を怠ったのだろうか。母が想像した僕の未来はこんなものだったのだろうか。

 過去の記憶もところどころ欠損する年齢になって、若い頃の自分が何を考えていたのかすら思い出せなくなってきた。

 母は本当にあんな言葉を言ったのだろうか。あの母の言葉こそが夢だったのではないだろうか。僕は若い頃の母の姿を夢で見て、本当に母がそう言っていたと思い込んでいるだけではないのだろうか。

 歳とともに記憶は薄れ、変化し、現実との境界が曖昧になる。

 僕は夢のような人生を生きることができたのか。

 あるいはそんな人生を歩んできた夢を見たのか。 

 残り僅かな人生にこそ、夢のようなことが待っているのか。

 僕は最近毎晩そんなことを妄想するのだ。 

夢のような人生.jpg 

                      了


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