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第三百十四話_short 殺しの遺伝子 [literary(文学)]

 いけない。そんなことをしてはいけないのだとわかっていても、どうしようもないことがある。

 それは、私の肉体の中に封じ込められた遺伝子がそうさせるのかもしれない。

 いまや世の中には恐ろしいことを平気でしてしまう人間がいることはニュースで見て知っている。先月も、動物を解剖しまくった挙句、ついに人間を、それも親友を殺して解剖しようとした女子高生の事件が報道された。

 なぜそんな恐ろしいことを? 何が彼女をそうさせたのだ? 

 世間の人々はそう訝った。だが、私は知っている。どうしても殺さずにはいられなかった彼女の中の遺伝子を。なぜなら、私の中にも同じような遺伝子が存在していることに気がついているから。

 しかし、違う。私はそんな恐ろしい人間とは違う。あの女子高生と同じだとは思いたくない。

 だがやっぱり……私の中の遺伝子は私をそっとはしておいてくれないらしい。

 私にまとわりついてくるこいつを殺さずにはいられないのだ。これはやはり遺伝子のなせる性なのだろうか? 

 パチン!

 ついに殺してしまった。 私はご先祖様の墓石の前で茫然と佇む。私から抜き取ったであろう血液が死骸とともに掌にこびりついているのを眺めながら。墓参りでは殺生をするなと、住職からあれほど言われていたのに。  

                      了

 

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第三百十三話_short 消毒 [allegory(寓意)]

 私の部屋には医療室においてあるような消毒液が常備されている。600ミリリットルの樹脂ボトルに入ったあれだ。病院では白いホウロウの洗面器に水で希釈されて入っていて、医師が手をつけて消毒するというイメージを思い出してほしい。

 どうしてそのようなものがあるのかというと、いうまでもなく消毒しなければならないからだ。毎日これをしないとたいへんなことになる。だが、毎日欠かさず消毒するというのは思いのほか面倒くさいし、なによりみじめな気分になる。なぜ私は毎日こんなことをしなければならないのだろうと思うからだ。

 普通、人間の体は自浄作用があって、数日風呂になど入らなくても菌に冒されてしまうようなことはない。だが、人為的に傷つけられてしまった個所にはこの自浄機能が損なわれてしまっていたりするために、わざわざ手をかけて消毒しなければならなくなるのだ。

 どこを、なにを消毒しているのかって?

 それをいまからお伝えしなければならないと思っていたところだ。

 私が毎日消毒しているのは、「穴」だ。

 身体の穴を想像してことだろう。鼻の穴、耳の穴、下半身のあの穴、毛穴、人工的に怪我をして出来てしまった穴……。

 だが全部外れだ。私消毒がしなければならないのは、もっと別の穴。

 大昔に虐待という悲しい仕打ちが繰り返されたときに開いてしまった穴。目には見えないとても小さな穴なのだけれども、確実に私の内部を侵食しようとする深い傷跡。 簡単な言い方をすれば心に開けられた穴ということになるのだろうか。

 この未だに痛みを伴う小さなしかし深い穴に消毒液を注ぎ込み、毒素を洗い流さなければ、私はなにをしでかすかわからない。自分で自信がもてないのだ。

 私は洗う。自らの浄化作用を失ってしまった見えない穴に消毒液を流しこんで。

 私が知らず悪しき方向に行ってしまわないために。 

                      了

 

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第三百十二話_short 友達リクエスト [horror(戦慄)]

 メールをチェックすると、友達リクエストが届いていた。

 友達リクエストというのはソーシャルネットワーク上でつながりましょうというお誘いなのだが、今回リクエストしてきたのは随分と懐かしい名前だった。

 宮前一郎。

 小学校からの友達なのだが、二十歳を過ぎてからはとんと付き合うことのなくなった奴だ。

 ソーシャルネットワークというものは、電話番号やメールアドレス、場合によっては出身校といった微細な情報からつながる相手を見つけてくるので、こんな懐かしい人と久しぶりにつながることができるというのが醍醐味ではあるのだが……。

 宮前一郎という名前は翌覚えているが、思い出したのは昨年のことだ。昨年行われた同窓会で宮前の名前が出たからだ。そのときの話では、宮前一郎はその前年に病気で亡くなったということだった。

 つまり今回のリクエストは死んだ人間から届いたということになるのだ。そう気がついたとき、俺は背筋がぞっとした。昔から死人から届く手紙の話や、死者からの電話といった類の怪談話は聞いたことがあったが、死者からの友達リクエストというのは初耳だった。

 数日後、別の友人からメールが届いて、あることがわかった。

 宮前一郎からの友達リクエストは俺だけではなく他の人間にも届いたらしい。そういうことに詳しい人間がいて、いったいどういうことかと調べてみたところ、宮前の死後、放置されていたIDが誰かに乗っ取られていて、勝手に悪用されていたということなのだった。幸い誰も損失を受けなかったらしいが、死んだ後のIDがそんなことになるなんて、俺は背筋どころか全身が鳥肌になるくらいぎょっとしてしまったのだ。 

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第三百十一話_short もしかして知り合い? [fantasy(妄想)]

 もしかして知り合い?

 ソーシャルネットワークのフェイスノートは、どういう仕組みなのかよくわからないが、まだ繋がっていない誰かを見つけ出してきて案内してくる。

 それが懐かしい誰かだったり、是非連絡を取りたかったあの人だったりすることはほとんどなく、すでに電話帳に記録されている友人の友人や仕事先の誰かの知り合いだったりする。知り合いの知り合いなんて会ったこともなく知り合いであるわけがない。

 フェイスノートは日々の楽しい出来事を日記のように書き込んで友達と共有できるのが楽しくもあるのだが、ときには困ったことにもなる。

 こないだも得意先とのアポイントに遅刻しそうになったとき、「夕べは遅くまで楽しんでいたみたいだしな」と嫌味を言われた。日常の行動がバレバレになってしまうのだ。

 親しい友人と共有できるのはいいが、出来れば仕事がらみの誰かとは繋がりたくない。ましてや「もしかして知り合い?」なんて案内されてくる会社の人間などにフェイスノートの書き込みを見られたくない。

調べてみると、こんな無用な案内を消すことができることが分かった。ブロックするのだ。

 僕は「もしかして知り合い?」に現れるリストの中で会社関係の人間をかたっぱしからブロックして消去していった。これで繋がりたくない人物はすべてリストから消えた。

 そのせいか、翌朝はなんとなくスッキリした気分で電車に乗り、会社のドアを開けたのだが……。

 はて? 今日は日曜日? いやそんなはずはない。昨日が日曜日だ。今日は週明けで街中ビジネスマンが溢れていた。なのに社内はがらんとして人ひとりいない。

 昨日ブロックしたリストのほとんどが会社の人間であることにはすでに気がついていたのだが。

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第三百十話_short ごめん臭い [allegory(寓意)]

 新幹線のトイレに行ったら赤い文字で使用中のサインが出ていた。隣もふさがっていたのでしばらく待っていると、とても奇麗な妙齢の女性が出てきた。

 私の横をすり抜けると、彼女の香水の匂いが微かに漂った。

 彼女が中でどんな用を足していたのかなど想像もしなかったのだが、個室に入って驚いた。臭いのだ。あの微かな香水の好ましい香りはどうしちゃったのだろう。私は息を詰めて急いで用を足した。

「ねぇ、どっちがいい?」

 客席に戻った私は隣席の恋人に訊ねた。

「なにが?」

「あのね」

 たったいま体験したことを前提に、私は究極の質問をした。

「トイレの個室で、先に入っていた人が男性であるのと、女性であるのと、どっちがいい?」

「ええーっ? 変な質問だなぁ。それって、その人の年齢や見た目によるんじゃないかなぁ」

「あ、なるほどね、じゃぁ、どっちも三十前後で、イケ面男か美女だったとして」

「そりゃぁ、俺は男だから美女の方がいいかなぁ」

「ふふん、そうだろうね。だけどさ、個室に入るととても臭いの」

「うわっ、臭いのかぁ。ウンチしてたんだな。つまり、同性のウンチの臭いと美女のそれとどっちがいいかって質問だな」

「ま、そんなことになるのかしらね」

 彼はしばらく考えてから答えた。

「それでもやっぱり……俺は美女かな」

「あら、どうして?」

「やっぱり同じ臭い臭いを吸い込むんだったら、きれいな人の方がいいな」

「じゃぁ、お腹を壊した美女の後と、普通の御状態の普通の女性では?」

「またそんな……究極の質問だな……やっぱ美女かなぁ」

「はらわた腐ってんのよ?」

「う、うん……」

 私はなんだか腹が立ってきた。 

「あなたって……うそつき!」

「な、なんだよ、なにがだよ?」

「いつも、人は外見より中身だなんて言ってるくせに!」

 やはり人間は外見というブランドで規定されてしまうのだ。排便の臭いでさえも。 

                      了

 

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第三百九話_short ゴジラ巨大化 [science Fiction(空想)]

 ゴジラが巨大化した。

 事故を起こした原子力発電所から漏れた放射線の影響なのか、あるいは異常気象のせいなのか。

 原因はわからないが、とにかくこれまで見たことのないほど大きく肥大化しているらいいのだ。

 地球防衛軍はかねてから研究開発を進めていたメカゴジラも巨大化ゴジラに合わせて巨大なものに設計変更し、途中まで出来上がっていたものを大きな造形物に変化させてゴジラに立ち向かわせることにした。

 そしてついに、巨大ゴジラが目覚めた。海底で眠っていたゴジラは陸地を目指してどんどん近づいてくる。大変だ! 地球防衛軍はメカゴジラの完成を早め、急いでスタンバイした。

 ゴジラが海の底から這い上がってくる。

 ズン、ズン、ズシン!

 ♪パパラパー、パパラパラー! ゴジラ出現の重厚なテーマ音楽が響き渡る。

 メカゴジラもメインスイッチが入り、いままさにゴジラ退治のために立ち上がらんとしている!

 巨大ゴジラの頭が海上に姿を現した。そして首が現れ、太平洋岸の海岸に全身を現そうとしている。

 しかし、どうした? ゴジラに何が起きたのだ?

 海から出ようとしたゴジラは全身が現れるにつれて背中が曲がり、首が胴体にめり込んで、立ち上がることができない! 

 ……大きくなり過ぎたのだ! 仰天!世界一のおデブちゃんのように、脂肪と厚い肉に覆われただけの巨大ゴジラは、ジャバハットさながら肉の塊として海岸に崩れ落ちた。

 一方メカゴジラは巨大ゴジラを迎え撃とうと立ち上がろうとしたその直後、余りにも巨大化し過ぎた合金の重みに耐えかねて、こちらも立ち上がるとほぼ同時にあちこちに亀裂が生じて、ついに崩壊し、一歩も動けないままその場にただの鉄くずと化した。

 哀れ、巨大化ゴジラと巨大化メカゴジラ。彼らさえも肥満には勝てなかったのだ。。。 

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第三百八話_short ドラッグの行方 [literary(文学)]

 繁華街を抜けて半ブロックほど先に行くと古びた雑居ビルがあって、その一階に怪しげな雑貨屋がひっそりと店を開いている。若者相手にパンクファッション系の衣類や雑貨を販売しているのだが、密かに別の商売をはじめて半年ほどになる。しかし、その商売も先月あたりから雲行きが怪しくなってきたのである。一部の素行のよくない顧客のおかげである。

「なんだか商売が難しくなってきたんじゃないの?」

 ショートアフロとかいう、昔で言うパンチパーマじゃないのかと思える頭髪をした店主の賢ちゃんに訊いてみると、眉を八の字に寄せて しかし空元気を奮発した答えが返って来た。

「まぁね、困った客が無茶をするもんだからねぇ。でも、 呼び名が変わったところで、売るものは一緒だからねえ」

 賢ちゃんはいつものように奥の棚からブリキ缶を持ってきて、中からビニール袋に入った怪しげな葉っぱを取りだした。

「はい、いつもの」

「大丈夫なの?」

「ああ、ほとんどいつものだよ」

「ほとんど?」

「こういうのは安定してないからねぇ、中身が」

「だ、大丈夫なのか?」

「大丈夫にきまってるじゃん、これは安全な方の脱法……あ、いや、名前が変わったんだっけ……安全な方の危険ドラッグだよ」

「安全な方の危険ドラッグねぇ……」

「こっちのは?」

「あ、これはだめ。あんたにはお勧めできないよ」

「というと?」

 賢ちゃんは怪しい方の袋を手で弄びながら答える。 

「これはね、ホンモノ。ホンモノの偽物だもの」 

「な、なんだって? ホンモノの偽物? いったいどっちなんだ?」

「つまりさ、認められてるやつ」

「認められてるのならいいんじゃないの?」

 賢ちゃん、いっそう声を顰めて言う。

「当局から、不認可のものとして認められているやつだよ、つまり前の言い方で脱法できていないやつ」

 なるほど、そういうことか。不認可として認められているやつ、脱法できてるが危ないやつ、安全な危険ドラッグ、ホンモノの偽物、偽のホンモノ……いったいどうなってるんだ、この国は?

「なんだか気分悪くなってきたから、今日は帰るよ」

「あ、そう。でもこの安心できる危険ドラッグを吸ったら治るかもよ……」

 背中に賢ちゃんの言葉を受け止めながら店を後にした。 

                                  

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第三百七話_short ダイバー [literary(文学)]

 こんな近くにダイビングスポットができたのだと喜んでやって来たのだが、確かに人気のスポットだ。実にたくさんの人々が休日を過ごしに来ている。待ち合わせの友人を待っている間に遊びに来ている人々を眺めているのだが、これがまた雑多な人々が集まってきていておもしろい。

 まず気がついたのがやたらと外国人が多いこと。アジア系も多いが、肌の色が違う欧米系の観光客も多い。そうかと思えば日本人に違いないのだがド派手な衣装を着た男女がいる。

 驚いたことに全身に豹の刺青が入った男がいる。まるで本物のようによくできた熊の気ぐるみを着た者までいる。なんなのだ、ここは。 

「おーい、待たせたな!」

 ようやく友人が到着した。

「ここ、面白いねえ、実に雑多な人間が集まってきている」

 そう言うと、友人が俺の出で立ちをみて言った。

「そういうお前もなんだそれ。このクソ暑いのに上っとスーツにボンベまで下げて」

「だってダイビングに来たんだもの。それにしても、こんなに多種多様な人がいるのにダイバーらしき人がいないなぁ」

 言うと友人は笑った。

「なに言ってんだ、お前。こんな都市近郊でダイビングなんてできるわけないだろうが」

「でも、 ダイバーシティって……」

「それはこの場所の名前だよ、もともとここは台場だし」

「でもこの雑多な客たちは……」 

「ダイバーシティって”多種多様性”って意味もあるんだよ」 

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第三百六話_short 隠居細胞 [allegory(寓意)]

「なに? 隣町の悪ガキが来る? いかんいかん、あんなチンピラたちはこの町の癌になりかねん!」

 正三はかつて町内会長も務めていたこの町の重鎮で、隠居したいまでも町のことをいろいろ心配している。

「な、最近知ったんじゃが、ヒトの体の中にも隠居細胞っちゅうのがあってな、それが癌の発生を防いでおるのじゃと。ま、わしもその隠居細胞みたいなもんじゃな、がっはっは」

 しかし昔気質の正三は古きものを愛するばかりに新しいモノは受け入れようとしない。

「なにぃ? この町を都にするだと? いかんいかん! そんなこと許さん!」

「なんだと? この町にカジノを誘致? 何を考えとるんじゃ、いかんぞ、いかん!」

 新しい提案にはどんなことであれいかんいかんを連発する。それが年寄りの役目であるかのように。

 近隣に住む中堅どころの世話役の間ではそろそろ正三の存在がうっとおしく思えてきた頃。 

「な、正三爺さん、隠居細胞とか言ってただろ? 隠居細胞、またの名を老化細胞っていうのはな、逆に癌を引き起こすこともあるそうだぜ」

「ああ、そうだな。爺さん、もしかしたらこの町にとって……」

 

「いかんいかん、頓道堀川をプールにするだなんて、許さんぞ!」

 爺さんが吠えていると世話役たちがやって来た。

「なんだ、お前たち。何ぞ用か?」

「すまんな、爺さん……」 

 一人が声を上げるとみんなが爺さんを取り囲む。

「さぁ! 手術の用意!」 

                     了

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第三百五話_short 最後の一葉 [literary(文学)]

「ああ、知ってるよ、それ。オーヘンリーの短編だろ?」

 スーさんこと鈴木は阿部満の答えにほっと胸をなでおろして話を続けた。

「よかった、君ならわかってくれると思った。そうなんだ、病院の窓から見える壁に残った蔦の葉が無くなったら死んでしまうと……」

「ところが嵐がやってきて蔦の葉が落ちてしまいそうに……」

「で、ある老人画家がその壁に葉を描く」

「さすが、同じ画家だけあるね、阿部満」

 だが阿部満は首を傾げて訊ねた。

「だが、その話と俺となんの関係があるんだ?」

「さぁ、そこだがね、な、頼む。一緒のお願いだ、カツラを買ってくれ」

「なんだ、お前はカツラのセールスなのか? しかもなんで髪の毛一本だけのカツラなんだ?」

 スーさんは答えに窮してしまう。

「いや、別に現状維持でもいいんだけどね、髪の毛一本の方がオーヘンリーっぽいかなって」

「なんだよ、俺の頭が最後の一葉みたいな……?」

 友人の城爺が、すっかり信じ込んでしまっているのだ。安倍満の髪の毛が無くなったら自分も死んでしまうのだと。

 遂にそのことを告げると、阿部満はもはや数十本しか残っていない頭頂の毛を大事そうに撫でながら言った。

「事情はわかったが、君は俺のこの残り少ない髪の毛が、間もなく散ってしまと、そう思っているわけだね?」 

                                了

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