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第五百二十六話_short 注射嫌い [literary(文学)]

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 子供の頃大嫌いだったものが大人になると好きになってしまうのはなぜだろう? お酒や煙草はその代表だし、食べ物でも菊菜とかピーマン、人参なんて子供の頃は絶対に食べなかった。

 口にするものではないけれども、子供はたいてい注射が大嫌いだ。何しろ痛いのだから。

 とりわけ昔の注射はとても痛かった。その理由は簡単で、あんな尖った金属を皮膚に射せば痛いに決まっている。それに昔の注射針は太かったのだ。あんな太いものを皮膚に射すんだから痛いし、それにも増して恐怖に見舞われる。

 いやだー! いやだー! やめてよ! 注射大嫌い!

 子供はみんなそう叫ぶ。当たり前なのだ。私など歯相が悪くって、あの歯茎に麻酔注射をよく打たれたものだ。歯茎に射す注射ほど痛いものはない。痛みを緩和するためになんで痛い目に遭わなければならないの? と歯科医を恨んだものだ。 

 ところが最近の注射は痛くなくなった。先日も久しぶりに虫歯ができて歯医者に行ったのだけれども、奥歯の奥に虫歯ができていて、相当削らなければならないとのことで、麻酔注射を打つことになった。昔の記憶がよみがえって恐そうな身振りをすると、「なんの大丈夫」と医師に言われ、実際に歯茎に射した針は痛みどころかまったく何も感じなかった。

「いまの針はとても細くなっているので、痛点を刺激しないんですよ」

 医師に言われて驚くとともに納得した。

 そういえば、普段使っている針が痛いなんて思ったことがないなぁとも気がついた。

 ついでに言えば、ホウレン草やピーマンと同じように、私は子供の頃は大嫌いだった注射がいまでは苦手ではない。苦手じゃないどころか大好物、いや、あれがなければ生きていけないくらいになっている。子供から大人になると、嗜好もずいぶん変わるものだと自分でも驚いてしまう。さて、今日も。

 私は自室の引き出しから取り出した薬物を注射器に吸入し、まくり上げた腕に細い針をそっとあてがった。

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第五百二十五話_short 針の話 [literary(文学)]

「どんなネタでも書けるんだな」 

 飲み席で友人に毎日お話のブログをを書いてるよと言ったら、へえそれはすごい。書くことってそんなにあるの? って聞かれた。

 ええ、そのとき思いついたことや耳に入ったワードから書くのよと答えると、じゃぁ、どんなワードからでも書けるんだなと脅すように言われた。仕方がないので、はい、その通りですと答えたのだが…… 

 じゃぁ、いまから俺がいう言葉ですぐに書いてみろ。

 まるで落語寄席のお題拝借みたいなことになってしまった。

 友人はしばらく考えてから、「じゃぁ、針で」と言った。

 針って……あの裁縫の針? それとも注射針? 釣り針ってのもあるけど? すぐに思いついたことを訊ねると、そんなのどっちだっていいから早く話を作れと急かされた。

 うん、出来た。いいかな……私は三分ほどで考えついた物語を頭の中で構成しながら話はじめた。

 

 うちの近所にどんな衣類でもリフォームしてくれる店があるんだけれども、その店は年老いたお婆さんが一人でやっているのね。お婆さんは若い頃から裁縫や編み物が得意で、オーダーメイドのいまでいうブティックみたいな店をやっていた頃もあるのだけれども、歳を重ねてからは自宅の玄関を改装した小さな店で細々とリフォームの店をやるようになったの。

 近所の人たちはお婆さんの腕を昔から知っているのでとても重宝している。値段もそれほど高くないしね。

 でもみんないつも不思議の思うのは、お婆さん、結構目が悪いらしく、いまでは人の顔もよほど近寄らないと見えてないみたい。店の隅っこに置いてあるテレビだって、目と鼻の先十センチほどに近づいて見ているの。よくもまあそんな目で裁縫やりフォームができるものだと感心していたの。

 あるとき、馴染みの客が急ぎの繕い物を持ってきて、すっごく急ぐので、いまここで待っている間に繕ってほしいと注文した。お婆さんはちょうど手も開いていたので快く引き受けたわ。客は店の入り口に置いてある椅子に腰かけてお婆さんの仕事を眺めながら待っていた。お婆さんは裁縫箱から針を取り出すと、いとも簡単に糸を小さな針穴に通して、作業をはじめた。本当に目が悪いのかなと思わせるほど的確に素早く繕いが進んでいく。もう終わったかなと思った時、お婆さんが別の個所にも小さな鍵裂きを見つけて言った。

「あらあら、ここにも。これも直しておきましょうね」

 糸が途切れたらしく、新しい糸につけかえようとしたその時、お婆さんは「あ」と小さな声を上げた。針を落としてしまったらしい。

「大丈夫ですか? お婆さん」

 客が心配して言うと、「うん、大丈夫大丈夫、針は他にもあるから」とお婆さんが言った。

「でも、落ちたの拾わないと……」

 細い針が床に落ちていたら危なくて仕方がない。あの細い針をお婆さんは悪い目でどうやってさがすのかなととても心配になったそうだ。一緒に探してあげようかなと思ってお婆さんの足元を見ると、床の上は敷き詰められたアルミシートで銀色に光っていた。あれ? 昔は畳敷きだったと思ったけど? 訝りながらよく見ると、床はアルミシートなどではなく、小さな針が無数に落ちているのだった。お婆さんは、「はいよ、出来上がり」と言いながらその無数の針の上を靴下一枚で歩いて来るのだった。 

針.jpg

 考えながら、夢中で話終えたのだが、友人を見るとグラスを持ったまま鼾をかいて眠っていた。

 

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第五百二十四話_short 痛み [allegory(寓意)]

 気がつくと目の前に白衣の男が座っていた。見たところどうやら医師のようだ。とすると、ここは病院なのだろうか?

「先生?」

 胸の名札に渡辺と書いてある。

「渡辺……先生?」

「は、なんですか?」

「あのう、僕は何故ここにいるのでしょうか?」

 渡辺医師は不思議そうな表情で僕を見つめながら答えた。

「何故って……それは私が聞きたいくらいですよ。どうされたのですか?」

 なんだこの医者は。僕をこんなところに座らせといて、何故だかわからないという。

「先生にわからないなんて言われたら、僕はどうしてここに……」

「あなたは自分でここにやって来たんですよ。忘れてしまったのですか?」

 自分で来た。なんで? 病院になにか用事があったっけ? 特に病気も持っていないし。怪我をした覚えもないし」

 僕は混乱した。確か都心に出ようと思って道を歩いていたんだ。ところがその後急に記憶が途絶えてここに座っているんだ。

「あのう、僕は病気じゃぁないですよね?」

「病気? さぁ、あなたははじめてここに来られたので、私どもにはあなたの既応症については調べてみないとわかりかねますが……」

 僕ははじめてここに来た? 何故? 何があった? いろいろ考えているうちに不意にある疑問が湧き起こった。何故そんなことを聞きたいと思ったのだろう。

「先生……おかしな質問かもわかりませんが……脳って、痛みを感じないって、ほんとうなんですか?」

「……気になりますか? 気になりますよね。ですがそれはあなたがいちばん知っているんじゃあないのですか?」

「僕が知ってる? ……なんで? なんでそんなこといっしゃるんですか?」

「なんでってあなた。ほら見てごらんなさいよ……ああそうか、見えないんですよね」

「は? 見えないって何が?」

「あなたの頭のてっぺんには刃物が刺さってるんですよ」

 僕はぎょっとした。刃物が? 頭に?」

 僕あ恐る恐る手を頭の上に持っていこうとした。

「あ、危ない! 触っちゃいけません。いまそれを動かしたら大変なことになるかもしれませんよ!」

 僕は慌てて手を引っ込めた。

「いいですか。いまから手術室に入りますが、なぜそんなことになったのか覚えてませんか?」 

 診察室にストレッチャーが運ばれてきて、僕は間もなく手術室に運ばれていくらしい。 

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第五百二十三話_short 狙われている男 [comedy(笑噺)]

 湯山が奇妙な格好で出社してきた。迷彩柄のスーツにヘルメット、しかもいやに着膨れしている。

「どうしたんだ湯山、その姿は?」 

 湯山はいやべつに、と言ったきり何も答えない。

「お前、そんなに肥えてたっけ? なんでそんなに着膨れしてる?」

 ようやく湯山が答えた。

「い、いえ、これは……防弾チョッキを着込んでいるもので……」

「防弾? なんでだ?」

 誰かが何かを落としたのかドン! という大きな音を立てると同時に 湯山は、あっ! と叫んで机の下に隠れた。

「いったいどうしたんだ、湯山?」

「ね、狙われているんです……」

 湯山は情けない顔をしていった。

「いったい、だれに? まさかお前……」

 ひと月ほど前に騒ぎになっていた事件が思い出された。外国でのテロ事件の後、つまらない動画をツィートで送り付けてきた日本人に、テロリストが怒って脅迫メールを送ってきたというあれだ。

「お前、テロリストになにかを送り付けたのか?」

「ち、違います」

「まさかお前、あの集団に参加しようなんてしてるんじゃあないだろうな?」

「ち、違いますよ!」 

「じゃぁ、いったい誰に狙われてるんだ?」

「あ、あいする……」

「や、やはりISILかっ?」 

「い、いえ……愛する女房に……」

「女房に?」

「彼女のへそくりを使ってしまいまして……」

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第五百二十二話_short ふらつく企業 [literary(文学)]

「おい、ウチの会社はふらつく企業とちがうか?」

 唐突に山田が言った。

「え? ブラック企業? なんで?」

「ブラック違う、ふらつく!」

 ふらつく企業? なんだそれは? ブラック企業なら、残業代が出ない、人をこき使ってボロ雑巾みたいに切り捨てる、というような評判のよろしくない会社のことだと聞いたことがあるが、うちの会社はそんなんじゃないと思うのだけど。それに山田はふらつく企業と言ってるが、それはなに?

「あんなぁ、よく考えてみ。しょっちゅう組織替えがあるやろ? あれ、意味あるんか? 売り上げが上がらん言うて~、急に他社の真似して新しい部署つくってみたり、業績の悪い部署を急に解体してみたり。だいたい業容かてそうやん。医薬分野に行くねん! 言うて失敗したら1年も経たんうちに止めてしまう。そんで今度はペット業界行くで! とかいうて、ほんまにふらふらしよる。これを俺はふらつく言うてるねん!」

 なるほど、ブラックじゃなくて、ふらつくね。それは面白い……別に面白ないわ! ただのダジャレじゃないの!

 ひとりボケ突っ込みをしながらも頭の片隅では納得していた。

 確かにね。そんなテキトーな会社だからこそ僕が生きていける。テキトーに仕事して、後は「いっちきまーす!」つって得意へ行くふりしてどこかをふらついている僕。ふらつく企業のふらつく社員だぜ。

 そういえば、どんな組織にでもお神輿にブラブラぶら下がっているブラブラ社員が一割はいるという話を聞いたことがある。そんな役立たずは不要だと取り除くと、残りのメンバーの中からまた一割ほどのブラブラ社員が生まれるという。きっと僕はそんな存在なんだ。

 どんな組織においてもということは、おそらく社会の中でも一割は役に立たないブラブラ組織があるのだろう。うちの会社はそんなブラブラ組織に違いない。ブラブラ組織のブラブラ社員。いや、ふらつく企業のふらつく社員……いいじゃぁないの。 

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第五百二十一話_short ブラック・カンパニー [fantasy(妄想)]

 零細企業だけれどもとても居心地のいい会社だと最初は思っていた。ところが最近なにかがおかしいのだ。

 世界中の顧客を相手にしているようなネット商売ながら、そういう業務を数名でこなしているような会社なので、ワーキングスペースをz中心に、社長室、応接室、会議室、倉庫など、小さな部屋がワンフロアーの中に確保されている。だから概ね社内の人間の居場所はわかっているはずなのだが、気がつくと何人かの姿がなくなっていた。

「あの、朝田さん、最近見ませんねえ?」

 隣席の山本先輩に訊ねてみると山本は小声で返してきた。

「そうなんだ。ここのところずっと無断欠席してるんで、なんかメンタル系の病気じゃないかって。電話しても出ないから、チーフが家まで行ってみたらしいけど、誰も出てこなかったって」

 いったいどういうことなのだろう。会社にも来ずにどこに行ってるんだ。そういえば……僕はちょっと前に朝田が話していたことを思い出した。

「気をつけろよ、この会社はブラックだぞ」

「ブラックって、あのブラック企業ってこと?」

「あ、ああ、そのブラックじゃないんだ。なんかこう、そうだなぁ……ブラックアウトっつうか、俺にもよくわからんがなんかブラックな気がするんだなぁ」

 結局よくわからない言葉だったので、その後すっかり忘れてしまっていた。

「で? どうなったんすか?」

「いや、そのままだ。このままいけばクビだろうなぁ……でもその前に姿を現さなきゃなぁ」

「そうですね。それはそうと、他にも空席がありますね」

「そうなんだ。君が入社する前にいた佐藤さんと山田さんもいつの間にかいなくなちゃって。それにほら、向かいのそこ、猪俣さんは昨日、倉庫に行ったまま帰ってこないんだ……」

 なんだこの会社は。人が少しずついなくなる? 朝田さんが言ってたのはこのことなんだろうか? ブラック? もしかしてブラックホールがこの中にあるとでも?

 ブラックホールという言葉を思いついたおかげでなんだか少しだけ腑に落ちた気がした。この会社のどこかに空間の歪みみたいのがあって、そこに行った社員はどこか別次元にワープしてしていなくなってしまう……まるで神隠しのように。そんなことってこんな近代社会の中であるのだろうか? 

 まさかそんな、と訝りながらも僕の妄想は続いた。

 このフロアのどこかに秘密の扉があって、そこをくぐるとどこか異次元の世界。宇宙人たちが待ち構えていて拉致される連。連れていかれた先には朝田さんやそのほかの人たちも捕えられていて、実験動物のように扱われている……。SF映画の見過ぎだな。

 ハハハと自分で笑った次にはもう別の妄想が湧いてくる。

 扉を見つけるところまでは同じだが、そのむこうに発見した階段を降りていくと、下階の別のオフィスに抜け出て、そこにはなんと社長が待ち構えている。「ああ、君か。よく見つけたな。では今日から君も我が社の特別幹部としてここで働いてもらう。いいか、上の連中には内緒だぞ。というか、上にはもう出勤しなくてもよい。ここで気楽に役員としての仕事をすればいいのだ」なんてね。そんな都合のいい話があるわけないか。

 しかし、社員が消えてしまったというのに、どうしてみんな平気な顔をして働いているのだろう。やっぱりなにか僕の知らない秘密があるのではないだろうか。

 そんな疑惑を持ちはじめた僕は社内の細部を注意深く観察するようになっていた。会議室のどこかに秘密の扉はないか。倉庫の奥になにか秘密が隠されていないか、そんな風に。

 あるときトイレの扉がもう一つあることに気がついた。なんだこれは? 外から見ると扉は二つ。トイレの中からはひとつしかない。

 これだ。

 僕は見つけたのだ。トイレの横にある秘密の扉を。

 もちろん僕は注意深くその扉に手をかけてそっと引いてみた。扉は簡単にスッと開き、僕は中を覗いた。

 薄暗い空間。

 なぜか恐怖感はない。ただ好奇心と期待感があった。

 ためらうことなく僕は扉の中に足を踏み入れる。もう戻れないだろう。そう感じながら中に進み行った。 

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第五百二十話_short 本当の恐怖は [horror(戦慄)]

 ……この映像は、とある田舎の廃村で発見されたビデオに収録されていたものである……

 映像は、三人の若者が山奥にある廃村に入っていくところからはじまっている。うっそうとした、そう、ちょうど樹海のように生い茂った樹木の間に細い山道があり、それを抜けると急に視界が開け、朽ち果てた家が建ち並んでいた。

「なんだか気持悪いわ」

 メンバーの一人、唯一の女性が言った。

「大丈夫さ、ただの山村だ」

 先頭を歩いている男が振り向いて答えた。

「いや、俺もなんか変な予感がする」

 ビデオカメラを回しているらしい男の声。

 昼間なのに夕方のような薄暗さは、天気のせいだと思われるが確かにあまり気持ちのいいものではないようだ。カメラは村の家々を順番に訪ねていく彼らの足跡をとらえていた。朽ち果てている以外はとりたてて変哲のなさそうな木造建築の建物は多くが藁ぶきの屋根を乗せていて、中には天井に大きな穴を開けてしまっている家もあった。奇妙だと言えなくもないことは、どの家も玄関口になにか魔除けのお札のようなものをいくつも貼り付けていることだった。だが、こんなお札は日本ではどこかの神社ですぐに手に入るようなものであったから、なにかの異変を示すものだと彼らは思わなかったようだ。

 やがて陽が落ちて、彼らは集落の中の最も大きな家で一夜を過ごすことに決めたようだ。その家は、おそらく村長の家ででもあったのだろうか、立派な門を構えた二階建ての大きな藁ぶき家だった。

 家の中で見つけた囲炉裏に火を起こした彼らの姿があった。ゆらゆら揺れる炎に照らされた彼らは英王だけを見れば妖気を感じさせるものがあったが、炎の前ではしゃぐ彼らの声がそれを打ち消していた。

 次に映し出されたのは暗闇の中で起き出す彼らの姿。

「なんだ、いまなにか変な音がしなかったか?」

「いや、あれは風邪の音だ」

「風邪なんかなかったぜ」

「いやだわ、寒気がしてきた」

「ほら、やっぱり。あれはなにかの声だ」

 ビデオには収録されていないが、彼らの耳にはなにかの声が聞こえていたようだ。「様子を見てくる」と一人が部屋を出てえいく。後ろ姿を映し出すカメラ。

「どうしたのかしら? 戻ってこないわ」

 不安げな女の声は、既に長い時間が経過したことを表していた。

「見てこようか」

「嫌。私を一人にしないで」

 結局二人揃って最初の男の後を追う。懐中電灯の明かりを頼りに二階に上がっていく二人。ギシ、ギシッと床が軋む。

 足元が映し出される。そこにはなにか獣の死体が干からびて転がっている。乾いた血糊。ライトが周りを照らすが、女の姿がない。

「おい、どこ行った! マリ。ふざけてるのか? おい!」

 カメラの男が必死に呼ぶがマリとyばれた女の姿はない。そして壁には朱色で描かれた気持ちの悪い印があった。後ずさりするカメラ。

「おおい、マリ! 信二! みんなどこ行ってしまったんだ?」

 カメラは大きく揺れながら階下を目指す。突然、大きく揺らいで暗転。

「ここは……? 俺、落ちたのか?」

 カメラが頭上に開いた穴を映し出す。

 ガサッ!

「ヒエッ!」

「シッ! 俺だ、信二だ」

「なんだよ、どこにいたんだ」

「ここは地下室だ。なにかの儀式が行われていたようだ」

 見ると祭壇のような物をいくつもの箱が取り囲んでいる。 何かの骨が転がっている。

「なぁ、マリが消えた」

「消えたって? そんなバカな」

「本当だ。二階に上がったときに・・・・・・・」 

 きえーっ! 何かが叫んでライトが消えた。カメラが転がって映像が乱れた。

「おい、大丈夫か? マコト!」

 信二が納戸呼んでもカメラを回していたマコトの姿はない。床に転がったカメラが不安そうな信二の姿をとらえている。

「マコト! マリ!」

 交互に叫ぶが、反応はない。

 信二は気が狂ったように階段を探し、一階に上がっていく。マリ! マコト! と叫びながらすべての部屋を探しまわる信二。みんなどこだ! どうなってる! 懐中電灯の明かりは余りにも頼りなく、しかも電池が少なくなったのか、次第に明るさを失っていく。

「あ……ああー……」

 床に崩れ落ちる信二。そのとき何者かがギャーっという獣めいた叫び声をあげながらカメラの前に現れて画像が乱れる。暗転。暗闇の中でガサガサという怪しい音。床に転がった懐中電灯が突然薄暗く瞬いて、壁に張り付いた血まみれの信二らしき姿を映し出す。しばらくそのままの映像が続いて突然切れる……。

 ……これは真実なのか? 三人のうち生き残った者は一人もいない。数ヵ月後にただビデオカメラだけが発見された。

 最初と最後のタイトルだけは編集者がつけ加えたモノだと記されてビデオが終わる。

 廃村でいったい何が起きたのか? これは真実なのか?

 だが、最も恐ろしいのは、最後の一人をカメラで撮ったのはいったい誰かということだ…………。 

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第五百十九話_short アンティークカメラは暴く [science Fiction(空想)]

「おおーここかここか!」

 僕は修を引き連れて古道具の懐古屋にやってきた。

 ここで不思議なアンティークラジオとアンティークテレビを手に入れたからだ。その当時の音声や画像を映し出すラジオやテレビがあるとすれば、昔のカメラで撮影したら? 想像するだけでもワクワクした。

 懐古屋の店内は薄暗く、並べられているほとんどがガラクタにしか見えなかったが、一画にそうした機材関係がこじんまりと並べられていた。

「カメラカメラ~っと」

 古びたカメラはいくつかあった。その中からまだ写真が撮れるのはどれかと店主に聞いて、なんだか味わいのあるアンティークカメラを一台手に入れた。たしかこんな感じのカメラを祖父さんが持っていたような気がした。

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 これって、フィルムとか入れなきゃあなんないやつだよな。いまのフィルムが使えるのかな? 心配したが近所の写真館でフィルムを購入して古いカメラに装着できた。

 いったいどんな写真が撮れるのだろう? ラジオやテレビと同じような効果があるのだとしたら……これはたぶん昭和初期の頃の写真が写るに違いない。

 僕らは町の風景や近所の家々や、その辺を歩いていた犬や猫を手当たり次第に撮影した。最後に数枚残ったので、修にカメラを向けた。

「おおい、俺は撮らなくていいよ」

 カシャ。

「もう、撮ったさ。これ、どう写るんだろうな」

 それならお前も撮ると、修は僕からカメラを奪い取ってレンズを僕に向けた。

 フィルムは三日ほどして出来上がってきた。

 僕らはドキドキしながらプリントの入った袋を開けて写真を吟味した。

「おいおい、このあたりの昔の風景だぞ、これは」

「おおーすごい! まるで昭和初期だな」

「まったく。見ろよ、この家。確かこのマンションを撮ったはずだよな」

 そこにはまだ新しい感じの、しかし昔の長屋が映っていた。

「これは? 猫?」

「ああ、でも撮ったやつじゃないね。たぶんあの猫の先祖だ。背中の柄がよく似ている」

 次に出てきた写真には背広で正装した男が写っていた。

「これって……ああ! 俺の祖父さんだ。若い時の!」

 どうやら猫や人間はその祖先が映るようだ。そりゃあそうだろう。何十年も遡ったらまだこの世にいない姿になっちまうものな。

「さぁ、最後にもう一枚だ。これはお前の写真だよな?」

 僕はそれをひったくろうとした。修に見られてはいけないと思ったからだ。

「お前の祖父さんはどんな……?」

 修は僕に奪われないように立ちあがりながら写真に目を向けた。そして目を見開いたまま固まった。

「お、お前は……いったい……?」 

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第五百十八話_short アンティークテレビの謎 [science Fiction(空想)]

「あったか!」

 僕のウチに置いてある古いテレビを見て修が叫んだ。そうなのだ。こないだ近くにある古道具の「懐古屋」で買ってきたラジオが不思議なことになっていたから、他に同じようなものはないかともう一度店を訪れたらあったのだ、この古いテレビが。

「これ、ラジオと同じ戦前のか? 玉音放送もきけるのか?」

 歴史には疎い修を僕はたしなめた。

「ばーか、テレビは戦後になってからなんだよ、日本では」

「ふーん、そうかぁ?」

 修はそう言いながらテレビのスイッチを探り当ててオンにした。長い時間がかかって古いテレビのブラウン管が真ん中から明るくなって、もう日が暮れるかなと思う頃に画面に砂嵐が映った。

「なんだ、何も映らないじゃないか」

「いや、ひとつだけ映るんだ」

 僕がチャンネルを目当ての場所に切り替えると灰色の画面にクラシックな洋服を着た女性が映った。きっとアナウンサーなのだろう。

「やっぱり! テレビも昔の放送が映るんだ!」

 修は驚きの声を上げ、僕は同意した。

「そうなんだよ。いつの話なんだかよくわからないが、なんかドラマ見たいのやってたり、コマーシャルも入るぞ」

 テレビの中では痩せた男が傘を振り回しながら「なんである? アイである」等と言っていた。

「なんでこんなことが?」

 僕たちはラジオのときにも同じ議論をしたが、残念ながら僕らの頭では何もわからなかった。聞きかじった科学の話から、きっとどこかでブラックホールに繋がって、タイムマシンみたいになってるんだ。いやいや、きっと昔の電波が宇宙のどこかに飛んでいって、何かに当たって跳ね返ったのが帰って来てて、それをこのテレビが受信してるに違いない。などと話し合ったが、しょせんド素人のSF妄想に過ぎない。

 いずれにしてもこれは不思議な現象であり、きっと科学者に見せたらドエライ研究対象になるに違いないのだが、残念ながら僕らはただ面白がることしか思いつかなかったのだ。

 しばらく昔の放送を二人で眺めていたが、映りの悪い白黒画面にしだいんい飽きてきた。

「なぁ、こんな昔の映像、退屈だなぁ。俺たちが知ってる人とか出てきたらいいのに」

 修に言われて思いついた。

「これに、ビデオカメラとか繋げたらどうなるんだろう?」

 それは面白い、やってみよう! となったがすぐに諦めた。ビデオカメラは持っていないので、スマホの映像をUSB接続してみようと思ったのだが、どこをどう見ても接続端子らしきものは見当たらないのだった。

「そりゃあそうだなぁ、この頃にはまだスマホなんてないんだもんなぁ」 

「じゃぁ、ついでに、古いカメラも探してみない?」

 修がそう言った。

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第五百十七話_short アンティークラジオの怪 [literary(文学)]

 以前から気になっていた古道具屋「懐古屋」で古いラジオを見つけて、これはいいインテリアになる! と勝手に思い込んで買い求めた。木製で格好いいのに信じられないほど安かったというのも手に入れた理由だ。

「うわ、これって戦時中のドラマなんかに出てくるあれじゃない?」

 僕の部屋にやってきてラジオを見つけた修が言った。そう言われればそうかもしれない。昔の戦争映画なんかで再現される玉音放送、あれはこういうラジオから流れていた。

「これ、なんか聴けるの?」

 聞かれて曖昧に頷いた。なぜなら、スイッチを入れてみると、なにか鳴ってはいるのだけれども、よく聞こえないのだ。それ以外にチューナーを回しても雑音ばかりでFMはもちろん、AM放送も受信していない感じだったのだ。だが、なにかは鳴っている。僕は修のためにスイッチを入れると、昔の歌謡曲が鳴りだした。

「あっれえ? これってすっげー懐メロじゃん? 赤いリンゴかなんかいう」

 そうか、これが聞こえていたんだ。よく聞こえないと思ったのはアナウンサーが喋っているときだったようだ。しかし、今時こんな古い歌がかかってたりするんだな。

「おい、これってなんかおかしいぜ。もしかして……」

 しばらく聞いていてわかってきたが、かかる歌は全部懐メロばかり。それにアナウンサーの喋り方も妙に古臭いしキナ臭い。

”帝国陸軍は、本日未明西太平洋においてアメリカ、イギリス軍と戦闘状態に入れり……”

「すげーよこれ。アンティークって外見だけじゃなくって、受信内容もアンティークじゃねーかよ!」

 そうなのだ、このラジオは当時の放送を受信するラジオだったのだ。

 修が言った。

「もしかして……その古道具屋、他になんかなかったか? たとえばテレビとか」 

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