So-net無料ブログ作成
検索選択

第五百八十七話_short ストレス回避 [literary(文学)]

 長年の会社勤めに疲れ果ててしまった男が妻に言った。

「どこか遠いところ、人間のいないところで暮らさないか?」

 ストレスは人の寿命を大きく縮めてしまう。いいのか、早死にしても。

 納得してくれた妻と二人で人間が一人もいない無人島で暮らしはじめた。小さい島なのに水があり、果実や魚、小動物など食物には困らない楽園のような場所だった。

 最初の半年、二人は幸せに過ごした。次の半年、二人は口をきかなくなった。そしてさらに半年後、男は首をくくり、妻は病気になって亡くなってしまった。

 ストレスは人の寿命を大きく縮めるのだ。

image.jpg 

                      了


↓このアイコンクリックしてくれると、とてもウレシイm(_ _)m

                
          ショートショート ブログランキングへ


nice!(3)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

第五百八十六話_short ネットでの儲け方 [literary(文学)]

 最近知ったことだが、ネットを使ったブログを書いてお金儲けができるという。そういうことに詳しい友人が教えてくれたのだ。

「すっごいらしいよ。毎月五十万も設けている人もいるんだって」

 世の中にそんな上手いはずがないと思ったのだけど、ネットで検索してみると、友人が言ってた通りの報告をしているブログがいくつも出てきた。

 つまり最近耳にする”アフィリエイト”とかいう仕組みなのだそうだ。それは自分のブログに広告スペースを設けて、広告主からの報酬を受けるという仕組みで、言ってみれば広告メディアを提供することによって収入を得るといったようなことなのだ。

 しかし、自分のブログをメディアにするというのは、案外難しそうだ。だってつまらないテレビ番組なんて誰も見ないのと同じように、いや、それ以上に個人的な日記みたいなブログを見る人なんていないわけで、アフェリエイトで稼ごうなんて考えているブロガーは、日夜より多くの人に読んでもらうためにブログを書き続けているわけだ。

 もともとブログは書いている人間として、僕もその手に乗ってみたい! そう思うのは必然だ。

 僕はいろいろ調べて、アフィリエイトの申し込みをし、儲けるためのブログを書いてみることにした。

 他のブロガーはどんな記事を書いているのだろう? そう思って調べてみると、大半は芸能人がどうしたとか、有名人の秘密! みたいな話ばかり。なるほど、やっぱり世間はそういうゴシップネタに興味があるのかなぁ? しかし僕自身はからきしそういう話に興味もなく、書く気にもならない。

 はて、どうしたものか。

 数日悩んでいたが、先日やっと気がついた。もしかして、ユーチューブでおかしな動画をあげている連中って、そうやって儲けているのではないのか?

 たとえばどこか飲食店の冷蔵庫に入って写メを撮ったり、公共の場で悪ふざけしたり。あれって、再生回数を稼ぐことによってアフィリエイトに結びつけている? そうに違いない。

 これだ! 僕はそう思って真似をしようと考えたが、ああいうのは全部迷惑行為として捕まっていたことにも思い及んだ。ああーだめだ。あれではだめなんだ。それに、動画を上手く撮る方法も知らないし。

 しかし、要は注目されればいいわけだ。

 誰もが驚くような内容のブログを書けばいいんだ。

 なんだ、簡単じゃないか。別に芸能ネタを集めたり、迷惑動画を配信しなくても、百万人がびっくりするようなことを書けばいいんだ! 

 僕は考えついた結論に誇らしくなって、この話を教えてくれた友人に電話で伝えた。

「……つまり、みんながびっくりするようなブログを書けば、大儲けできるってわけだよ!」

 電話の向こうで友人が鼻をほじりながら言った。

「その通りだけど、そのびっくりするような内容って、なんなんだよ?」

 僕は驚いて言い返した。

「それがわからないから、こうしてまた君に相談してるんじゃあないか!」 

afirieitonoshikumi.png 

                      了


↓このアイコンクリックしてくれると、とてもウレシイm(_ _)m

                
          ショートショート ブログランキングへ


nice!(2)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

第五百八十五話_short はじめての遺伝子検査 [literary(文学)]

「あなたも一度、検査してみた方がいいよ」

 友人に勧められて早速ネットで調べてみた。

 最近話題の遺伝子検査では、将来罹りやすい病気だとか、身体的な特徴だとか、向いている職業など、本人自信が知らなかったような実にさまざまなことがわかるのだという。

 検査方法は簡単で送られてきた検査キットに入っている綿棒で口の中の粘膜を少しなぞるだけ。それを送り返せばいいのだ。

 しかし自分自身でも知らないことがわかってしまうなんて……ちょっと怖い気がしたが、自分のことをもっと知っておきたいという好奇心が勝り、いちばん安い検査コースを申し込んでしまった。

 間もなく送られてきた検査キットで説明書通りに口の中の粘膜をなぞって送り返した。

 二週間ほどすると速達が送られてきた。

「今すぐ、当院へお越しください。至急お知らせすべき検査結果があります」

 何事かと思わせるような文面で、私は翌日すぐに検査結果を聞きに出かけた。

 病院では中松博士というかなり立派そうな老人が待ち受けていた。

「あなた、身は軽い方ですか?」

「爪がすぐ伸びるのではないですか?」

「高いところが好きですか?」

 矢継ぎ早に訊ねられるのだが、そのどれもが突拍子もない質問ばかりで私は戸惑った。

「なんなのですか、いったい。検査結果はどうなったのですか?」

 博士は神妙な顔で言った。

「いいですか、奥さん、どんな結果だったとしても驚いてはいけませんよ」

 よからぬ結果が出たのだ。こんな検査受けなければよかった私は少し後悔した。

「奥さん、あなたの遺伝子は……」

 博士はもったいをつけるかのように言葉を止めた。

「あなたの遺伝子は、人間のものじゃないんです」

 人間のものじゃない? じゃあなに? 私は人間じゃないというの?

「あなたの遺伝子を検査してみたところ、人間というよりは、猫の遺伝子に非常に近いものでした……」

 それから博士は遺伝子検査の内容に関わる専門的な話を次々と喋ったが、私はほとんど聞いていなかった。私は恐ろしかったのだ。自分の知らないことまでわかってしまうというこの検査が。知りたくないことまでわかってしまったら? 将来とんでもない病気になってしまうなんて言われたら? 今の仕事がまるっきり間違っているなんてことがわかったら? 私はこの先どうやって生きていけばいいのだろう。

 そう思った私は恐怖のあまり、送られてきたキットの綿棒を使う時に、思わず足元にじゃれついてきた愛猫の口の中に突っ込んでしまったのを思い出した。

 image.jpg

                      了


↓このアイコンクリックしてくれると、とてもウレシイm(_ _)m

                
          ショートショート ブログランキングへ


nice!(3)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

第五百八十四話_short 見晴らしの崖 [suspense(不安)]

「ひゃあ、きれい」

 目の前に広がるパノラマ風景を見て恵子が叫んだ。

「あなたよくこんな素敵な場所を知っていたわね」

 知っていたわけじゃない。恵子を連れてくるために探したんだ。車で来れて、しかも喜ぶであろう景観の場所を必死で探した。人に尋ねるのも疑われそうで、ネットで探し回り、自分で走り回って探したんだ。そこまでやるか? 自問自答しながら、しかしこうするのが最も適切だと考えたからだ。

「でもあなたがこんなドライブに誘ってくれるなんて、意外だったわ」

 最初は喜びにあふれていて、幸せな結婚をしたと思っていた。だが、一緒に暮らしはじめ、恵子がいかにわがままで自分勝手で浪費癖のあるひどい女であったことがわかるまでにさほど時間はかからなかった。

 俺の収入のほとんどは恵子の贅沢なディナーに費やされ、それなりに貯め込んでいた貯えはおしゃれや宝石に変わった。お金がなくなると、貧乏生活は嫌だと言って離婚を言い渡されたのだ。恵子が出ていった後には恨み以外にはなにも残らなかった。

 離婚をして数ヶ月、俺は一人で悶々と暮らしたが、恵子をこのまま野放しにしてはおけないと思ったのだ。

「あなた、私のことを恨んでると思ってた。でもこんな素敵なドライブに誘ってくれるなんて」

 車を停めたのは「見晴らしの崖」と名づけられた眺望の素晴らしい場所で、こわごわ覗き込むのも腰が引けてしまうような危険な崖だ。

 「ここはね、みはらしの崖と呼ばれている秘密の場所なんだ」

 俺は言いながら恵子の背後に近づく。

「あんまりキワまで行くと危ないよ」

 そう言いながら俺は恵子の背中をトンと押した。不意に背中を押されてバランスを失った恵子が落ちていくのを眺めながら、俺はひとりごちた。

「この崖にはウラの意味もあってね……ウラミハラシの崖って言うんだがね」

 image.jpg

                      了


↓このアイコンクリックしてくれると、とてもウレシイm(_ _)m

                
          ショートショート ブログランキングへ


nice!(4)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

第五百八十三話_short 偲ぶ会の夜に [literary(文学)]

 ずいぶんと久しぶりに招集がかかった。去年の前半まではよく行っていた立ち飲み屋だ。場末と呼ぶべきくらいの安物の店なのだけれども、昔から地元の著名人や業界人が飲みに着続けてきた老舗だ。私が住んでいるエリアではないので、誰かに誘われなければ足を向けることはないのだが、去年は月に一度くらいのペースで集まったものだ。

「いやぁ、久しぶりだなぁ」

「そうだね、あの日からもうすぐ一年になるんだもの」

 あの日とは、この店で飲むときの中心人物だった我々の大先輩が急逝した日のことだ。まだ六十歳も半ばで、まさかそんなに早く逝ってしまうとは誰も考えてもみなかった。

「こうやってここで飲んでると、後ろの戸がガラッと開いて、いまにもあの人が入ってきそうじゃないか」

「ほんとそうだ。で、言うんだなぁ。”お! ちゃんと頭使って生きてるか?”って」

「あの人、関西出身だから、すぐに言われるんだ”アホかお前は”って」

「あ、そうそう。俺もよくアホかって言われたな」

「でも、そのアホってのは、馬鹿って言うことでもないんだな」

「ときには面白いこと言うなあっていう褒め言葉だったりしてね」

 そんな他愛のない思い出話で酒が進んでいく。生ビールの次はそれぞれに焼酎だったり日本酒だったりを次々と注文してしまう。なんせ安いんだから遠慮する必要もない。 

 酒が進んでもう故人の話よりは自分たちの近況などで楽しい気分が盛り上がってきたが、また誰かがふと思い出して言う。

「そういえば、お前、入院の直前に一緒に飲んで立って?」

「そうなんだ、入院する三日前に僕はあの人とここで飲んでたんだ」

「俺はその日は仕事で来れなかった。いま思えば残念だ」

「で、その時にひとりごとみたいに言ってたんだよな。どうも腎臓の具合がよくないと医者に言われたって」

「ふーん、わかってたのか」

「で、たぶん冗談だと思うんだけれども、”お前と飲めるのもこれが最後かもな”とか言うから、逆にアホかって言ってやったんだ。でも、あれ、うすうすわかってたっていうか、半分本気で言ってたんだなあ。もっと親身になればよかったと思う……」

 言いながら私は涙ぐんでしまった。親でもないのに、なんでここまで悲しみが持続するんだ、あの人は。

 店の片隅の壁には誰が貼ったのか、遺影に使われたのと同じ写真が貼られていて、こちらを向いて笑いかけている。なんでそんな写真に目を向けてしまったのか、目から涙があふれ出してきた。誰にも見られないように少し横を向いてお絞りで額を拭うふりをしながら目頭にあてがった。横並びで飲んでいる連中にはバレていないと思うんだけれども。

 すると背後から耳元で声が聞こえた。

「アホか、お前。なに泣いとんねん!」

 振り返ったが、もちろんそこには誰もいない。 

遺影.png 

                      了


↓このアイコンクリックしてくれると、とてもウレシイm(_ _)m

                
          ショートショート ブログランキングへ


nice!(4)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

第五百八十二話_short 合わせ鏡の恐怖 [horror(戦慄)]

合わせ鏡.JPG 

 合わせ鏡というものをご存じだろうか。たぶん知らない人は少ないと思うのだが、二枚の鏡を向かい合わせにしてお互いに写り込むように置くことによって、鏡の中に無限に映しされていくというものだ。

 実際にやってみるとなかなか不思議な光景が現れる。その不思議さゆえに、さまざまな都市伝説もあるようだ。

 たとえば合わせ鏡をしてある呪文を唱えると悪魔が現れるだとか、丑三つ時に合わせ鏡をしてはいけない、幽霊が現れるからとか、そういう類の話だ。残念ながら、悪魔の呪文を知らないのでやってみることはできないし、幽霊も怖いから丑三つ時の件もやってみたことはないのだが、ひとつだけやってしまったことがある。

 それは、合わせ鏡のいちばん奥にある自分の姿を見る、というものだ。

 合わせ鏡は、見る角度によって連続する姿はフレームアウトしてしまう。二枚の鏡自体も並行に向かい合わせ、できる限りその真ん中に立つ。すると鏡の画像は少しずつ小さくなりながら画面の真ん中に吸い込まれるように集約されていく。

 鏡に映り込んだ自分自身も少しずつ小さくなりながら画面の真ん中に吸い込まれていくわけだが……。

 私はいちばん奥に映っている自分の姿を確認しようとしたが、あまりにも無限に続き、その上最後の方は小さすぎて見えなくなってしまうのだから、結局見えやしない。  

 なんだ、見えないじゃないか。いったいいちばん奥の自分を見たら何が起きるというのだ?

 ますます興味を持ってしまい、想像もたくましくなった。

 もしかして、こうしている間にもいちばん奥の自分がこっちへ向かって近づいて来ているのではないかしらん? あるいは置くに行くほど少しずつ歳を取っていて、いちばん奥の自分はもう死んでいるとか。

 考えているとなんだか恐ろしくなってもう止めようかと思ったその時、いきなり画面の中にもう一人の私がぬっと現れた。

「わっ!」

 驚く私に、現れたもう一人の私が言った。

「何してるの、兄ちゃん」

 双子の弟が割り込んできたのだった。 

                      了


↓このアイコンクリックしてくれると、とてもウレシイm(_ _)m

                
          ショートショート ブログランキングへ


nice!(3)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

第五百八十一話_short 右か左か [literary(文学)]

左右.jpg 

 右という文字と左という文字は、兄弟みたいなものだとずっと思っていた。

 ところがどうやらそうではないらしい。まずその書き順なのだけれども、右は払いが先、左は横棒が先にかかれなければならないらしい。そんなことは小学校で習ったはずだ! 書き順の先生はそう言うが、そんな昔のことは忘れてしまった。なんで違うんだ? 訊くと答えが返って来た。

 右と左の冠見たなのは同じだと思っているだろう? だがそれは違う。よく見てごらんなさい。右の文字は払いよりも横棒が長いだろう。そして左は横棒よりも払いが長いのだ。

 なんだ先生、そんなの書く人の癖なんじゃないの?

 そう思うならもう一度、ここの書いてある左と右の文字を見比べてごらん? ほら、長さが違うでしょう。ね、そうなんだよ、それぞれ短い方から先に書くんだ。

 あ! ほんとうだ。長さが違う……知らなかったまぁ。いや、気づかなかった。そんなこと習ったんだっけ?しかし先生、形が違うのはわかったけれども、だからと言ってなんでわざわざ書き順を変える? 間違いのもとじゃないか。同じ西といてくれればよかったのに。

 するとまたすぐに答えがあった。

 あのな、長い方を先に書いてしまうと、次のアクションまで距離があるだろう? ところが短い方を先に書けば、ほら、すぐ近くに次の書きはじめがあるではないか。この方が合理的だということで、ある偉い先生がそう決めたんだ。

 なるほど。左の払いを先に書いてしまうと、横棒まで少し遠い。右だって横棒を先に書くと払いの書き始めまでが遠い。なるほどなぁ! うまく考えられてるなぁ!

 たとえば、「右」は「有」「存」「在」「布」なんかが仲間だし、「左」は「友」が同じ部署だろう? どうだ? 

 なるほど。これはわかりやすい。だけど……左の友だちは友だけ? 他にないの? 

 そうだな。右のほうはいろいろあるが……

 そんなことだからダメなんじゃあないのか? 私は急に腹が立ってきた。

 右、右って、これまでのことにしがみついてばかりじゃあないか。そんな保守的な考え方が世の中を停滞させるんだ! いいか、世界は技術革新で発展してきたんだ。人間の考え方もどんどん革新していかなければいけない。どうしてみんなそれがわからないんだ?

 おいおい、ちょっと待ちたまえ。何を言ってるんだ? 

 右と左の話だよ! 右翼と左翼、どうして左には友が一人しかいないんだ? 間違ってるよ! 

                      了


↓このアイコンクリックしてくれると、とてもウレシイm(_ _)m

                
          ショートショート ブログランキングへ


nice!(5)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

第五百八十話_short 半面笑い [literary(文学)]

 向かいの席の河西係長はいつも眉尻を下げて困ったような顔でパソコン画面を覗きこんでいる。私との境に立っている低いパテーションのちょうど上縁辺りにその下がった眉毛が乗っかているのでなんだか面白いのだ。左隣りの砂原さんは口をタコのように突出してキーボードを叩いている。横から見ているから余計によくわかる。

 人にはそれぞれ長年の間に癖のように身についてしまった表情というものがある。もともとの骨格や遺伝的な顔のレイアウトというものもあるだろうが、眉や唇の動きによる表情は、間違いなく後天的なものだ。困った顔をしている人は、きっと四六時中困った顔をしているからそうなってしまったのだろうし、唇を突き出すのはどこか文句でも言いたいと思っているからそうなるのに違いない。

 河西係長や砂原さん以外にも、八丁眉毛でいつも驚いたような顔をしている泉さんは、もしかしたらいつも何かに驚いているのだろうし、眉間に深い皺が刻み込まれている松田さんは常々怒り過ぎてそうなったのに違いない。

 ちょっとユニークなところでは、唇がというか、顔が半分だけ笑っている香川さんだ。いつも右側の唇が少し上がっていて不敵に笑っている。その表情からは半分拗ねたような物事をはすかいにみるような感じが見てとれるのだが、間違いなくそれが香川さんの性格なのだと思う。真面目な人ではあるが、実際話をすると、真面目な話でもどこか半分斜に構えているような、人を小馬鹿にしているような印象が免れない。

 こんな風に顔を見ているだけでその人の性格どころかこれまでの生きざままで想像できるのだから面白いと思うのだが、ふと私自身はどう見られているのかなと思った。

 自分のことは自分ではわからない。洗面所に行って鏡に顔を映してみる。

 無表情。そう、私にはほとんど表情がないのだ。どこか冷たい顔をしてじろじろと人の顔ばかり見ては批判している、どうやらそれが私の顔に染み付いている表情らしい。

能面.jpg

                      了


↓このアイコンクリックしてくれると、とてもウレシイm(_ _)m

                
          ショートショート ブログランキングへ


nice!(3)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

第五百七十九話_short プラスとマイナス [literary(文学)]

+-.jpg

 世の中にはプラスとマイナス、二つのねじがあるけれど、どう使い分けられてるか知ってる?

 そう訊ねられて、そんなこと知るかいっと思ったが、なにか答えなけりゃあ格好悪と思った。

 ああ、もちろんそんなことは知ってるよ。プラス思考の人とマイナス思考の人がぞれぞれ使うんだよね。 

 適当に答えてやったら、やつはそれみたことかとドヤ顔を準備しながら語りはじめた。

 プラスのねじはね、ゴミや誇りがプラス穴の中に溜まりやすいんだ。一方、マイナスのかたちなら、簡単に汚れを出せるだろう? つまりね、汚れやすいところはマイナスねじ、あとね狭いところなんか……ほら、ネジの長い柄が入らないようなところでも、マイナスだったらコインなんかが使えるだろう? だから、汚れやすいところにはマイナスが使われるんですよ。

 そして彼はドヤ顔になった。

 私も負けず嫌いだ。

 ふーん、じゃ、やっぱりそうじゃないの。汚れやすいところ、汚れ役、それってマイナス思考じゃないの?ほら、やっぱり。 マイナス思考はマイナスドライバー、そうじゃない方……プラス思考は何も考えずにプラスってことで。

 奴のドヤ顔はあきれ顔に変わろうとしていた。 

                      了


↓このアイコンクリックしてくれると、とてもウレシイm(_ _)m

                
          ショートショート ブログランキングへ


nice!(5)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

第五百七十八話_short ループライター [literary(文学)]

「あなたの書くものには現実感がないというか、薄っぺらいんだね。きれいごとすぎて……」

 先生の言うことはすごく最もで確かにその通りだと自分でもわかった。これまで何年物語を書き続けてはきたものの、誰からもどこからも認められることもなく、ほんとうはモノを書く能力など最初からなかったんだという思いがまた吹き上がってきた。才能……そういうものはやり続けることによってなんとかなるものだと信じてきたのだけれども、そうじゃない。才能とかセンスというものは生まれついて身についているものなのだという真理が再び明確な姿を見せるのだった。

 富美代はそこまで書いて一息ついた。PC画面の中には何度も何度も書いては決してを繰り返して連ねてきた文字が蟻の集団のように並んでいる。

 私はいつまでこんなことを続けるのだろう。続けてさえいれば、いつかきっと何者かになれるに違いない、そんな根拠のない信念だけを頼りに今日まで書き続けてきたのだが、もうすぐ書き上がる物語も酷評されてしまうのだろう。先生が言うことはだいたいわかっている。

「薄っぺらで真実がない、きれいに上っ面を追いかけているだけで……」

 そこで手を止めて煙草に火をつけながら高文は考える。この主人公は俺だ。俺自身の体験を書いているんだ。そのはずなのにリアリティがないのは何故なんだ。俺自身のことを俺自身が書いて真実が伝えられないなんて、俺にはよほど文才がないっていうことなのか?  それはとても恐ろしい考えであり、高史はいつも否定し続けてきた。だが今度ばかりはこの考えこそがリアルなのではないのかという真実が目の前にあるPC画面の中を埋め尽くしていた。

 もうだめだ。この作品も「リアリティがなさすぎる」とどやしつけられることだろよ。俺の先生は決して間違ったことは言わないはずだ。

 文子はため息をついた。ああまた同じだわ。この登場人物は私の分身に違いない。そりゃあそうよね、私の小説なんだもの。

 いつもそうだ。自信満々で書きはじめるのに、中盤あたりからは私自身の現在と重なりすぎて行き詰まってしまうんだわ。こんなものいくら書いても同じ。結局「中身がない、リアルじゃない」と一喝されておしまい。もうどうにでもなれ。とうとう文子はキーボードから手をあげてしまった。

 二三彦もまたいま書いたのと同じようにキーボードから手を離す。もうげんかいだ。少なくとも今夜は。頭が朦朧として、自分が誰なのかなにをしているのかさえわからなくなってしまいそうだった。

 と、画面から離した目をしょぼしょぼさせながらフミは遠くに視線を向けた。頭が混乱しそうだったからだ。

 これは僕じゃないのか? 僕も今画面から目をあげたところだ。そうして部屋の窓から外に目を……。

 あたしは視線をまた画面に戻して…………

ループ.jpg 

                      了


↓このアイコンクリックしてくれると、とてもウレシイm(_ _)m

                
          ショートショート ブログランキングへ


nice!(4)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。