So-net無料ブログ作成

第六百十七話_short ドローンぱっ [literary(文学)]

 そういえば携帯電話も最初はあんな感じではなかったか。

 電話を持ち運ぶなんて、そんなものいらないでしょう。それにあんなもの持って運べないし。

 みんなそんな風に思っていたんではなかっただろうか。ところが大きく重たい自動車電話にはじまったそれは、みるみる小型化していき、十年後にはビジネスマンの半分くらいが持つようになり、いまでは子供までが携帯電話を手にするようになった。

 技術の進化ってそんなものなのだ。

 小さな無人機を飛ばして仕事をさせる、ドローンも最初は単なる高価な玩具だと思われていた。しかしいくつかの企業がカメラを搭載したり荷物を運ばせたりという任務を課して実用化をはじめたところ、みるみる広がっていった。それもドローンの場合は、最初から個人に向けた玩具発想がスタートだったから、いきなり世界中の個人が買い求め、社会の受け入れ態勢はかなり遅れたというのが実情だ。そのために世界中が無法地帯で、その中を何百何千という無人小型飛行体が飛びまわることになったのだ。

 いま、世界の空はクラウドとドローンで構成されていると言っても過言ではない。よくもまあ、あれだけのドローンがぶつかりあわない者だとは思うが、技術は進化するもので、お互いが一定の距離を保つようにプログラミングされているのだそうだ。

 常に誰かのドローンが上空を飛んでいて、空から街や人々の姿をカメラで捕えていて、その様子が誰かが持っているモニターに映し出されている。あるいはそうしたものが公共の電波に乗せられて世界中に配信されもする。

「一家に一台」をとうに通り越していまやひとりが一台以上のドローンを持っていて日夜空を飛ばしている時代。誰もがいつでもどこでも好きな場所にドローンを飛ばして街や人の姿を眺めることができる。

 いったいなんのために? それでどうなるのか?

 そんなこと誰も考えてやしない。とにかくドローンがあるからそうしているのだ。

 きょうも何百何千のドローンが空に浮遊している。  

ドローン空.jpg 

                      了


↓このアイコンをクリックしてくれると、とてもウレシイm(_ _)m

                
          ショートショート ブログランキングへ


nice!(4)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

第六百十六話_short 無口な夫 [ordinary day(日常)]

 ウチの旦那は家に帰って来てもなぁんにも喋らないんですよ。ただいまも言わずに帰ってくるから、「ご飯にしますか、それともお風呂?」 と聞くと「フロ!」と一言言うだけですぐにお風呂に入ってしまう。

 お風呂から出てきたらテレビをつけながら「メシ!」。そのまま黙々とテレビを見ながらご飯を食べて、その後はずーっと黙って野球中継を見ている。そのうち眠くなったら「ネル!」 と宣言して寝床に行ってしまうのですよ。本当に最近の男の人ってああなのかしら? 昔はもう少し会話があったように思うのですけどね。まるで他の言葉は忘れてしまったみたい……まさか会社でもあんな風じゃあないんでしょうけどね。

 

「部長! お昼、いきませんか?」

「メシ!」

 

「いつものメシ屋ですね、行きましょう」

「部長、これ、新しいのを送付します? それとも……」

「フロ!」

「わかりました。古い方でいいんですね」

 

「部長、こないだお渡しした企画書、いかがです?」

「ネル!」

「ああ~そうですか。わかりました。もっと練った方がいいってことですね」

「ほぉント、うちの部長はレベルが高過ぎて……難しいな、ついていけなくなっちゃうな……」 

風呂飯寝る.jpg 

                      了


↓このアイコンをクリックしてくれると、とてもウレシイm(_ _)m

                
          ショートショート ブログランキングへ


nice!(4)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

第六百十五話_short 水曜日郵便局 [literary(文学)]

 水曜日になると私は手紙を書く。

 手紙のあて先は水曜日郵便局。九州熊本の行ったことのない町にあるという郵便局。

 手紙の中身は水曜日の今日、私が考えていること、感じたこと、出会ったなにか、そして日頃から誰かに言いたかったこと。私の周囲の誰にも言えない、言いたくない私自身のことを便せんにしたためて、それを人知れず封筒に治めるのだ。

 私が書いた手紙を、水曜日郵便局の誰かが読むのか、あるいは誰かに転送されて読まれるのか、それは知らない。

 読んだ相手もその手紙の書き手が私であることはわからない。何しろこちらの名前も住所も書かずに送るのだから。

 それでもこの世界にすでいるただ一人の私という存在を読み手は知ることになるだろう。書かれている内容に共感してくれるかもしれないし、ひどく拒否されてしまうかもしれない。何しろそこに書かれている内容はこの世でただ一人の存在である私自身のことなのだから。

 そして私の手元には、あったことも見たこともない誰かからの手紙が届く。知らない誰かが自らの水曜日についてしたためた手紙だ。私が送ったものと同じように、その人も誰にも言えなかったことを手紙に書いて水曜日郵便局に送ったのだろう。

 私は見ず知らずの誰かが書いた手紙を開く。そこには情念すら感じるような自筆の文字が細かく並んでいる。こういう場合はワープロとかそういうのではない、手書きの文面が望ましい。肉筆の想いが伝わるからだ。

 手紙の中身に私はひどく今日が驚愕する。なにしろ世界でただ一人の存在である誰かが書いた自らの想いだ。それにその想いに至るまでにその人が行った行為について。私は手を震わせながらその先を読む。

 胸の中に動揺が走る。そして間もなく共感がやって来る。

 そうだ、この人は、誰だかわからないけれども、私と同じなんだ。同じようなことを感じ、考え、このような行為に至ったのだと思う。深いシンパシー。

 おそらく今ごろ、どこかの誰かも、私の手紙を読みながら同様の共感にうち震えていることだろう。

 水曜日郵便局。

 そこにはあらゆる場所からさまざまな人の水曜日が描かれた手紙が届く郵便局。 

 

akasaki_binsen.jpg

〒869-5065 熊本県葦北郡津奈木町福浜165番地その先 

                      了


↓このアイコンをクリックしてくれると、とてもウレシイm(_ _)m

                
          ショートショート ブログランキングへ


nice!(4)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

第六百十四話_short 漂流郵便局 [literary(文学)]

 瀬戸内海の真ん中にある離島の中に、漂流郵便局があるという。

 送り先のわからないいくつもの郵便が流れ着き、行き先がわかるまではそこで預かられるという。

 いつかのどこかのだれかさまに、どうしても手紙を書きたくなったとき、

 人々は漂流郵便局にあてて手紙を書くのだそうだ。

 どこかで出会った知らないあなたに、

 いつか知り合った名前も知らないあの人に、

 天国に召されてしまった父や母に、

 生まれて間もなく逝ってしまった子供に、

 人は想いを伝えるために手紙を書いて漂流郵便局に届けるのだそうです。 

 

 拝啓

 あの日出会った誰か様。

 お元気でいらっしゃいますでしょうか? 私は何ひとつ中身は変わらないまま、ただ歳だけを重ねて過ごしてまいりました。

 あなた様のことですから、きっとさらに貴重な経験を積み重ねられて、ますます立派なご仁になられていることと思います。

 あの日、あなた様のおかげで私はキラキラした日々を過ごさせていただき、私の中の何かが変わるに違いない、そう信じていたのですが、あなた様が去ったその日から、すべては夢のように消え去ってしまい、あなた様との貴重な経験ですら日を追うごとに薄れてしまい、いまではあなた様の面影さえ分からなくなってしまっているのでございます。

 ただ、何かたいへん貴重な時間を過ごさせてもらったという幻のような記憶と、そこにはどなた様かさえわからないあなたがいたという記憶だけが頭のどこかに染みついており、どうしてもあの日のことを思い出したくてこの手紙を書いている次第でございます。

 それにしてもあれはいつのことだったのでしょう。去年のような気もしますし、十年、いや、五十年も前のことだったような気もするのでございます。あなた様はどこかから突然現れて、私をさらうように未知の国へと連れて行ったのではなかったのでしょうか。私には、そうしたどこに連れて行かれたのか、そこがどんなところだったのかすらもはやわからないのでございます。もしいつか、この手紙があなた様の目に留まるようなことがありましたら、是非、是非とももう一度、私をあの場所へ誘っていただきたいのでございます。

 もう一度あなた様と出会い、もう一度あの場所へ行くことが叶いましたら、私はもう二度と記憶を失わず、新しい自分のために経験を生かしたいと願っているのでございます。

 ああ、どうかこの手紙があなた様に届きますように。いえ、届かなくともお目にさえとめていただければいいのです。

 いつかのどこかのだれかすらわからないあなた様へ。

漂流郵便局.png

香川県三豊市詫間町粟島 1317-2

漂流郵便局留め 

                      了


↓このアイコンをクリックしてくれると、とてもウレシイm(_ _)m

                
          ショートショート ブログランキングへ


nice!(3)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

第六百十三話_short いろはの不思議 [literary(文学)]

 いろはにほへと

 ちりぬるを

 わかよたれそ

 つねならむ

 うゐのおくやま

 けふこえて

 あさきゆめみし

 ゑひもせず

 

 いろは歌なんだけれども、これってすごいと思わないか? 

 日本語にあるすべての音を一回だけ使って意味のある文章……んだけは入っていないけれど……

 これって、すべての音を一回だけ使うというアルゴリズムだよね。いったい誰がこんなことを考えたのだろう。

 調べてみたらね、空海が作ったとか、いやいや柿本人麻呂が考えたとか、諸説あるようだけれどもよくわからないらしいね。これ、作ったということもすごいけれども、こういう発想で意味のある文章にしようと思ったのもすごいんじゃあないか? 

 四十七文字の日本の音があって、これだけで文章にしようと思ったのか、あるいは、そもそもそれ以外の音もあったのだけれども、いろは歌で使われた四十七文字が公式の音とされるようになったということなのか。

 試しに、四十七文字を一回だけ使ってなにか文章化しろって言われてできるかい? 私には考えられないように思う。あんなものは宇宙人にしか作れないんじゃあないだろうか。

 ……と思っていたら、 これがまた、調べてみたら明治時代にあったらしいね。コンテストみたいなのが。

 坂本百太郎って人の鳥啼歌っていうのが一等だったというから、ほかにも大勢の人が作ったモノがいくつもあったということだ。その人たちはいったい何者? 宇宙人ではない?

 たとえば英語で……ABCのたった二十四文字を一回だけ使ってなんか意味のある文章にできるのだろうか?

 あの数え唄みたいなエービーシーディー……って並べることしかできないのではないか?

 世の中にこれよりも作るのが難しい文章があったら教えて欲しい。たとえば、日本語のすべての音を二回だけ使った文章とかは? うーん、これはむしろいろはよりも簡単なのかも知れないな。誰かが考えそうだ。

 どうだ? いろは歌より困難な文章があるかい?

 世に訊ねてみたら、一休さんが答えた。

「ありますよ。私にもどうすればそんなものができるのかわからないという問題が」

 え? ほんとうか? そ、それはどんな文章なのだ?

「はい。では、教えてあげましょう。これができる人がいたら、私は裸になって逆立ちして町内を一周しますよ。いいですか?」

 一休さんが言った。

 日本語の四十七文字と「ん」の音を一回も使わずに文章をつくってください。 

iroha.jpg 

                   了 


↓このアイコンをクリックしてくれると、とてもウレシイm(_ _)m

                
          ショートショート ブログランキングへ


nice!(3)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

第六百十二話_short アリアケ菌 [literary(文学)]

 有明君!

 そらきた、また課長の小言だ。なんで僕ばかり目の敵みたいに叱りつけるんだろう。

 ところが今回、課長はやさしく口を開いた。

 あのねえ、有明君。君は腸内フローラって知っているかい?

 は? 腸内ですか? フローラって……ああ、お花かなんかですか?

 そうだ。腸内フローラとは、腸内にさまざまな菌が住んでいることをそのように言っているのだ。

 わぁ、なんかきれいのだか、汚いのだか。

 それで、その菌というのは、ビフィズス菌みたいな善玉菌もいるが、病気を引き起こす悪玉菌というのもたくさんある。

 はぁ……(課長、いったいなんの話なんだ?)

 たとえばだな、肥満とか花粉症とか、それどころか鬱病や糖尿病なんかも腸内フローラ、つまり腸内の菌によって引き起こされるんだそうだ。

 はぁ……そうだったんですか……(だからなに?) 

 とりわけ恐ろしいのはだな、アリアケ菌っていうやつらしい。これがだな、DCAという癌のもとになる物質を出すんだそうだ。つまり、アリアケ菌は癌の元というわけだな。

 アリアケ菌……ですかぁ?

 有明君! アリアケ菌とは、君の名前と大変よく似ているな?

 アリアケ……有明……はぁ、確かに。だからそれが……

 私は君のことをこれから有明菌と呼ぼうと思うんだが、どうかな?

 有明菌? どうって? なにがです?

 つまりこういうことだ。君は、我が課のアリアケ菌、癌の元だっていうわけだ。

 ぼ、僕が? 癌の元?

 いや、元じゃないな、癌そのものだ。君はウチの課の、いやウチの部、いやいや我が社の癌だ! 君、有明菌は我が社の癌なんだよっ!

 …………(頼むから、そんな持って回った言い方しないで、シンプルに行きましょうよ……)

 ねえ、課長……? 

アリアケ菌.jpg 

                      了


↓このアイコンをクリックしてくれると、とてもウレシイm(_ _)m

                
          ショートショート ブログランキングへ

          ショートショート ブログランキングへ


nice!(3)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

第六百十一話_short 気づき [philosophy(思惑)]

 いつかはお父さんやお母さんのような立派な人間になれると思っていた。

  誰にでも優しくて、人から信頼され、世の中の役に立つような、お金持ちとか地位が高いわけではないけれども、人として尊敬できるような人間、それがお父さんでありお母さんなのだと思う。

 でもまだ僕はそうはなれていないし、どうやらこの先もお父さんやお母さんのような人間にはなれないとわかった。

 みんな気づいているのだろうか。たぶん気づくどころかそんな風に考えてすらいないのだと思う。毎日食べることや眠ること、遊ぶことだけに夢中になって、そんなことだけで一日を終えてしまって、そういう意味のない一日を繰り返す歳月を過ごしていく。それが普通の生き方なのだろう。

 でも僕は考えてしまったのだ。どうすれば単調じゃない生活ができるのだろう。どうすればより意味のある一生を送れるのだろう。そんなことを考えなければよかったのに。そんなことは考えても無駄なことなのに。

 人はそう言うのを哲学と言うらしいけど、僕らには関係なかったはずだ。毎日食べて寝て遊んで暮らしていればよかったのだ。

 でも僕は気づいてしまったのだ。一旦気づいてしまうともはや戻ることなんてできない。そのような考えに悪魔のように取り憑かれてしまうからだ。

 どんなに努力しても、どんなにお父さんにお願いしても、無理なものは無理なのだ。僕はお父さんやお母さんのような立派な人間には金輪際なれないのだ。

「さぁ、でかけようか」

 お父さんが僕に言った。

 僕は思考を中断して玄関で待っているお父さんのところに駆け寄る。

 お父さんはニコニコしながら僕に首輪を取り付けた。

DVC00074.JPG

                      了


↓このアイコンをクリックしてくれると、とてもウレシイm(_ _)m

                
          ショートショート ブログランキングへ


第六百十話_short アンドロイドは年齢判定ソフトをみるか? [literary(文学)]

 最近、マイクロソフト社が開発した「年齢判定ソフト」っていうのが話題になってるらしい。人の顔写真をネット腕にアップすると、その年齢や性別が即座に判定されるんだって。ネットで上で話題になっていて、たくさんの人がタレントの顔なんかをチェックして遊んでいる。

 たとえば若手のモデルタレントなんて、実際に若いのに、さらに若く十七歳とかに判定されてる。そこそこの女優さんなんかも二十代だったりして、なんだかつまんない。そこへいくとオンナ芸人は実際より歳上に判定されてたりして、これはネタとしてはそれなりに面白いけどね。オネェタレントなんて、女子よ。女子に判定されてしかも若め。でも、そりゃあ女装してきれいにしてるんだからそれで当たり前のような。

 でも白塗りメイクの悪魔閣下は実年齢に近いそれ相応の結果だったというし、もっと凄いのは、アンドロイドみたいな顔をしたガクトさまは判定されなかったんだって! ええっ? あの方は本当はアンドロイドだったの?

 このソフト、猫や犬は判定してくれない。しかし、ロボットやアンドロイドはどうなんだろう? ロボットなんかで試したという話はまだネットで見つけていないのでわからないんだけど。

 目と鼻と口があって、人間っぽく見えたら判定されるのではないのかな? 最近のカメラみたいに顔認証ソフトってことに違いはないんだけれど。

 面白いのは心霊写真で試した人がいて、それはちゃんと年齢が判定されたんだって! でもね、その心霊写真、ほんとうにお化けが写ってたの? ってそこが問題よね。たいていは誰かの顔を写りこんでしまってるんだろうから、それなら人の顔として判定されてあたりまえでしょう?

 で、私はどうなのかって? それが恐くてまだ試していない。何が恐いのかって? 実年齢より高く判定されるのが恐い? まぁそれは嫌だけれども、そんなことよりもっと根本的な……はぁ……実は私はロボットだったってオチだろうって? うーんちっと違う……じゃあアンドロイド? まぁ近いものはあるけどね。

 私は人間なんだけれどもね、ないのよ……顔がね。

 私はこのショートショートの登場人物なんだけれども、まだ顔形を与えられていないの、それに、この話もそろそろ終わっちゃうだろうから、たぶんもう顔は与えられないまま終わっちゃう。だから、顔判定ソフトにアップロードできないのよね。

ロボット、しずく、アンドロイド.jpg

                      了


↓このアイコンをクリックしてくれると、とてもウレシイm(_ _)m

                
          ショートショート ブログランキングへ


nice!(4)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

第六百九話_short 通常業務 [literary(文学)]

 だいたい出来上がった。今日はすごく捗った。後はいくつか写真を張りこめば完璧だ。

 私はパソコンソフトを使ってさまざまなツールをデザインするのが得意だ。特にどこかで習ったわけではないけれども、世にパソコンが普及しはじめたときに出会ったフォトショップやイラストレーターで仕事をしているデザイナーたちが作ったモノを見て、なんだ、手で書けなくっても機械があればなんだってできるんじゃないと安易に思ってパソコンやソフトを手に入れたのが最初だ。実際、当初はプロであろうがアマチュアであろうがみんなパソコンで何かをするということには慣れていなかったので、世界中が同じスタートラインからはじめることができたのだ。

 もう一度言うが、私はデザインの学校等には行っていない。だからペンを持ってデザインをしたりイラストを描いたりはできない。でも知り合いの若いデザイナーに訊いてみたら、その人だってパソコンがなければなにもできないそうだ。それほどいまのパソコンは万能になってしまったのだ。

 好きこそモノの上手なれ、じゃあないけれども、好きではじめたデザインを、私は完全に独学で身につけて、いまではプロと変わらないほどのスキルを持っている。だから友人や知り合いによくデザインを頼まれる。これがお金になったらいいのにと思うのだけれども、友人や知り合いからはなかなかお金はいただけない。 

 いま仕上げているのはとある飲食店の広告物だ。結構こじゃれたものに仕上がったと我ながら感心しながら画面を覗きこむ。

「君、なにやってるの?」

 いつの間にか上司が背後に立っていた。

「い、いえあの、お店の広告ですけど」

「あのねえ、君が家で何をしようと勝手だけれども、会社ではきちんと仕事をしてくれるかな?」

「あ、あのこれは……」

「これはって……君の仕事はデータ集計じゃあなかったかなぁ?」

PC.jpg 

                      了


↓このアイコンをクリックしてくれると、とてもウレシイm(_ _)m

                
          ショートショート ブログランキングへ


nice!(3)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

第六百八話_short ありがたい人 [literary(文学)]

 いつの頃からだろう、挫折の経験もなくどんなときでも前向きな姿勢を保っていたはずのかつての僕はいまではまったくその反対に属するような人間になっていた。

 いまの僕はちょっとしたことにもすぐに落ち込み、ひどい時には死んでしまいたくさえなる。おそらく順風満帆だった人生に少しずつ影が落ちはじめたことによって次第にそうなってきたのだろうと思う。

 若いころに挫折を経験した人間はおそらく強いのだと思うが、僕のようにぬくぬくと生きてしまった人間は非常に打たれ弱いのだ。他人にとってはほんの些細なことでさえ死んでしまいたくなるのだ。

「ああ、もういけない。ぼくはもう駄目なんだ」

 他人には滅多なことでは心の内を告げない性格の僕だが、妻にだけはすぐに本心を打ち明ける。

「どうしたの? 何があった?」

 僕の性質を知り尽くしている妻は、そんな弱音もちゃんと聞き入れてくれるばかりか、救いの言葉を与えてくれる。

「うん、たぶん道を歩いていてだと思うけれども、君にもらった大事な小銭入れを落としてしまったんだ」

「まぁ、そうなの。それはもったいないことしたわね。あれは良いものだったのに……でも、そんなものまた買えばいいじゃない。私、また買いに行くわ」

 確かにたいしたことはないのかもしれない。でも、妻にもらったという思い出までもを落としてしまったような気になってしまうのだ。しかし、妻がそう言うのならと、僕は次第に元気を取り戻すことができた。

 別のときもやはり妻は励ましてくれた。

「なぁんだ、上司に怒鳴られたくらい何よ。野良犬に吠えられたくらいに思って聞き流しておけばいいじゃない」

 野良犬とはいかないが、まぁその通りだ。いったん聞き流しておいてまた頑張ればいいんだね。

「仕事、なくなっちゃった。あの上司から干されてるんだ」

「あら、それなら自由な時間が増えたって思えばいいじゃない」

 しばらくしてまた。

「どうしよう。いよいよいけない。会社、クビになっちゃった……リストラだよ」

「困ったわねえ。でも、また仕事を探せばいいじゃない。いままで経験できなかった新しいことができるわ、きっと」

「でも、しばらく収入が」

「そんなのどうにでもなるわよ。あるだけの貯えでなんとかしましょう」

 本当に妻はすばらしい。どんなときだって僕を責めたりなじったりしない。むしろいい方向に向かえるように元気づけてくれるのだ。 僕はなんて素晴らしい人を奥さんにできたんだろう。

 妻に元気づけられる度にそのように感謝するのだけれども、僕の中の影の部分はそう簡単には霧散しやしない。新しい仕事もなかなか見つからず、ついには貯えも底が見えてきた。いよいよもうダメだ。もう僕は死ぬしかない。ぼくが死にさえすれば、家のローンも保険でチャラになるし、そのほかにも保険金が下りるから、妻にとってもその方がいいのだ。

「ごめん。僕はもう駄目だったよ。とうとう自ら命を落としてしまった」

 僕がそう言うと、妻は明るい声で答えた。

「まぁ! なんてこと! なんでその前に言ってくれなかったの? 私の力不足だったのね……でも大丈夫。また生まれ変わってきっと今度は新しい自分になれるから。落ち込まないで」

 やはり妻はすばらしい。僕はなんて幸せ者だったのだろう。心から安堵を覚えて僕の魂は天上に浮かびあがって行った。 

雲の上.jpg 

                      了


↓このアイコンをクリックしてくれると、とてもウレシイm(_ _)m

                
          ショートショート ブログランキングへ


nice!(4)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。