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第六百七十九話_short 抑圧と発散 [literary(文学)]

「なんだこれは! こんなものやり直しだ!」

 江良粗部長は部下が差し出した書類をひと目見るなり大声を出した。

「書類というものはみんなが見るものなんだ。どうせ中身は薄いんだ。せめてもっと丁寧に綺麗な文字で書いてこい!」

 また部下の一人が怒鳴りつけられておる。江良粗氏は常に自分が正しいと思っているのだ。確かに丁寧に書くことは大事だとは思えるのだが、中身も見ずに怒鳴りつけることもないのに。周囲で聞いていた他の部下たちはそう思った。

 

「なんですか、これは! こんなものやり直しですよ!」

 テーブルの上に積まれた洗濯物をひと目にるなり妻が叫んだ。

「いくらきれいに洗っても皺だらけだとみんなに見られますよ。こんなに薄いシャツすらたためないの? せめてもっと丁寧に仕事をしてほしいものだわ!」

 会社では天皇のようにふるまっている江良粗氏だが、家に帰れば家事の手伝いをしなければならないし、それもいちいち指導が入るのだ。家での抑圧を会社で発散させているのだろうといわれても仕方のない有様であった。 

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第六百七十八話_short 感じ方の差 [literary(文学)]

「うーん、美味い。ここのカレー、初めて食べたけどジャガイモがふかふかですごくおいしいじゃないか」

 良介が美味い美味いと食べている隣で同じものを食べていた半助は顔をしかめていた。

「うーむ、ここのカレーは肉が入ってないなぁ。こんなのカレーじゃないよ、味はまぁそこそこかもしれないけどね」

 

「わぁ綺麗! 私こんなお花初めて」

 夜半に花開く月下美人の大輪の花を目の当たりにしながら良子は思わず歓声をあげてた。さほど大きくはない鉢植えに植わったサボテンにも似た葉の真ん中に一つ、その上下左右にもう三っつほど咲いた白い花から目を離すことができないでいるのだった。するとそこに姉の半美がやってきて後ろから覗き込んだ。

「なあんだ。ちょっとしか咲いてないのめ。私、もっとたくさんお花が咲くのかと思ってたわ。あんまし綺麗じゃないね」

 

「なぁ、わしの人生も捨てたものじゃあなかったように思うのだが。もう年だから何もできないかと思っていたが、そうでもないな。わしはまだこれからかもしれんなあ」

 七十を過ぎてはじめた手習い仕事が間もなく一年を過ぎようとしている良蔵爺さんは、一周年を祝ってくれている仲間たちに向かって言った。同じころ、半蔵は病院のベッドの上で横たわったまま一人つぶやいていた。

「わしの人生はなんじゃったんじゃろう。生涯を勤め人としてつまらん会社に費やして、僅かな退職金も家のローンに消えてしまった。もうなにもする気になれないまま、この年を迎えてしまった。挙句の果てがつまらん病になってしもうて。こんなつまらん人生になんでなってしまったんじゃろう」

 同じ地上で同じように生きている者の感じ方はさまざま。 

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第六百七十七話_short 悪魔の仕業 [literary(文学)]

 世の中で起きている様々な事件の中には、どうしても理解できないようなものが多く存在する。たとえば親殺しや子殺し。金銭や愛憎が絡んでいるような場合は別として、なぜ大事な肉親を殺す必要があったのかわからない。あるいは意味の見つからない無差別殺人。車で児童の列につっこんだとか、商店街でいきなり刃物を振り回したとか、その多くは自覚もなく、記憶にさえないか、あるいは完全に人の心を失っていたりするのだ。ほとんどの人は単に不可解な話だと嘆くばかりなのだが、稀にこれは悪魔の仕業に違いないなどと言い出す者が現れる。

 つまり、悪魔が人間に乗り移って犯罪を犯す、または悪魔に操られて人を殺す。反対に、悪魔に乗り移られた人間が悪行を起こす前に殺してしまうという逆パターンもありうる。そういう荒唐無稽なことを考える人間は数少なく、それ以上の行動をとることはさらに少ないのだが、稀に誰かに伝えようとする人間が現れる。小説化して多数の人間に読んでもらおうとするのだ。

 幸い最近のものではアマチュア作家であり、悪魔の所業を暴き立てた本を書き上げたものの結局出版にまでこぎつけることができず、そのうちにそんなことを考えていたことも忘れてしまったようだから、誰一人として真実に触れることさえなかった。

 ところが今度は映画にまでなってしまったのは困ったものだ。ニューヨークで実際にあった話という触れ込みでブラッカイマーという人間が中心になって映画化してしまったのだ。

 悪には、人間が行うものと、それ以外にもっと根源的な悪が存在するという事実に基づいた話になっていて、驚愕のシーンが随所に盛り込まれている。人間がこんなものを見たら世の中ひっくり返ってしまうと危惧したが、案外そうはならなかった。人々は単なるホラー話として受け止めたようだ。

 これが真実として全人類に理解され、彼らが本気で立ち上がるようなことになれば大変なことになっていただろう。我々は胸を撫で下ろしたのだ。

 悪魔払いが日常茶飯事にあちこちで行われるような事態にでもなれば、もはや打つ手がなくなってしまうというのが、このところ悪魔界での最重要問題になっているのだ。

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第六百七十六話_short タイムトラブラー [ordinary day(日常)]

 私には子供の頃から特別な能力があるらしい。その能力とは時間に関するものなのだが、説明するには少し時間を頂戴しなければならない。何しろそう簡単に説明できるような事柄ではないからだ。

そもそも時間という概念についてだが、我々は日常ですごく簡単に時間の話をするけれども、実際には時間とは何なのかという問題について、本当に正しく説明できる人間などいないのだ。物理学者にして、相対性理論だの紐理論だの小難しい理屈や数式を並べて説明を試みてきたが、果たしてそれらが真に証明されたことはついぞないのだ。

時間という代物は目に見えない。また測定できもしない。時計があるではないかというが、あれは太陽や地球の動きを基にして便宜上数字に置き換えられるように作られたものに過ぎない。地球の人間がいう一時間は、その他の惑星に住む生き物にとって同じであるとは限らない。それどころか同じ地球に住む者にとってさえ、同じとは思えないのだ。象時間と鼠時間という話を聞いたことがあるだろうか。体の大きさが異なる象と鼠では時間の捉え方や感じ方が違うのだそうだ。

さらに同じ人間でさえ、何かに熱中しているときと、呆然と過ごしているときの時間の長さが違うと感じたことはないだろうか。

日常的な話をするが、私自身は、決められた時刻に決められた場所へ行くのがとても苦手だ。

たとえば朝九時に三十分ほどの距離にある場所で待ち合わせすることになったとする。私の行動はふた通りある。ひとつは現時刻を読み間違えてあっさりと遅刻してしまう。電車に乗り込んだ時にはすでに時計の針は九時を指していて、そのときの電車の動きの遅いこと。

もうひとつは、もう六時くらいから目覚めていて、まだまだ時間があるなとなにか別のことをする。本を読んだり映画を見たりして気がつくと七時半くらいになっている。そろそろ準備をしなけりゃと余裕で支度をして八時には家を出る。ありゃ、これは早く着きすぎるなと考えて、途中で銀行に立ち寄ったり売店で雑誌の立ち読みをしたりして時間を潰す。そろそろ電車に乗らなければと時計を見るともう八時半を過ぎている。これはいかんと思うが、しかしまだ大丈夫。ちょうどよい時間に着くだろうと思っていたら、電車がなかなか来ない。ようやく到着した電車に乗り込むとすでに八時四十分。おいおいでんしゃ、遅いじゃないかと思うが、目的駅に着くのはどう考えても九時だ。そこから歩いて五分の待ち合わせ場所に到着できるのは九時五分。すでに遅刻が確定してしまっているのだ。

こういうわけで、私は常に正しい時刻に目的地に到着することができない。

長きにわたるこのような時間との闘いを自分なりに振り返ってみてふときがついた。これって、もしかしたらある種のタイムトラベルではないのだろうかと。もちろん過去に向かうようなことはできない。しかし未来に向けた自分の時間的座標がずれてしまうというタイプのタイムトラベル。もしこれをコントロールできるようになれたならば、未来までの時間的距離を短縮したり増幅したりできるのではないか?

長くなったけれども、これが私のいう特殊能力なんだ。

ここまでの話を呆れ顔で聞いていた友人が言った。

「もっと素直に謝ったら? 寝坊して遅れたって。よくもまあそんな言い訳を考えたものだわね」

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第六百七十五話_short ノー・リーズン [poetic(詩情)]

 なぜ、スピルバーグ映画「ET」の宇宙人は茶色なのか? 理由はない。

 なぜ、「ラブストーリー」の二人は、激しい恋に落ちるのか? 理由はない。

 なぜ、オリバー・ストーンの「J.F.ケネディ」は突然誰かわからない相手によって暗殺されたのか? 理由はない。

 トビー・フーパーの「チェーンソー殺人鬼」が手を洗う場面がないのか? 理由はない。

 ポランスキーの映画「ピアニスト」は、なぜ浮浪者のように生きなければならないのか? 理由はない。 

 人生には理由のないことがいっぱいだ。

 なぜ、我々は周りの空気を見られないのか? 

 なぜ、我々はいつも考えているのか? 

 なぜ、世の中にはソーセージの好きな人とソーセージが嫌いな人がいるのか?  理由はない。

 

 あるB級映画の冒頭で述べられるこんな一連の文言を見ながら思った。 

 うーむ、確かに世の中には理由のないことがいっぱいあるような気がする。しかし、こんな言葉も聞いたことがあるなぁ。

「世の中のすべてのことには理由があるのだ」

 理由がないように見えても、すべての事柄には理由があるのだというが、いったいどっちがほんとうなんだ? 

 人はなぜ生まれてくるのだろう。

 人はなんのためにいきているのだろう。

 ……理由はない。というか、答えがない。

 少なくとも言えることは、理由が見つからないから、宗教が生まれ、哲学が生まれ、心理学が生まれ、文学がはじまった。 

 そしてそれらのいくつかが、「すべての事柄には理由があるのだ」と言うようになった。

 輪廻の蛇のように、あるいはヒヨコと卵のように、

 理由がない世界と、すべてに理由がある世界が回り続けている。 

 ぐるーり。ぐるーり。ぐるーり。 

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(引用:映画Rubber)

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第六百七十四話_short 干渉者 [allegory(寓意)]

 朝からなんとなく鼻がむずむずしてなんとなく熱っぽい気もする。午前中は仕事場に行ったのだが、どうも調子がおかしくって、ははぁこれは風邪をこじらせかけてるなと思って病院に出かけた。

 仕事場からほど近いところにある総合病院は、平日だというのに子供や年寄りが出たり入ったりして思いのほか混雑していそうだった。

 自動扉が開いて中に入ると、黒いジャケットの男性が近寄ってきた。

「どうされました? 風邪……でもひかれましたか?」

 なんだこの人は顔を見ただけで病気がわかるのか? たいしたものだなと思いながら答えた。

「ええ、そうなんです。どうやら風邪を……」

 私が言い終わらないうちに男が言った。

「熱がおありでしたら、まずは内科に診てもらえばいいと思いますが、鼻や喉の調子がおかしいっていう感じじゃないですか? もしそうなら、耳鼻咽喉科がいいと思いますよ。内科だと総合的すぎてね、そりゃあもう耳鼻咽喉科の先生のほうが即効で治す手当をしてもらえますから」

「あ、そうなんですか。ええと、確かに鼻にきてるんですけれども……なんだか熱っぽいような気もするので」

「あ、なるほど。鼻からきて熱っぽいと。ううむ、それなら一応内科で診てもらってから、そのあと耳鼻咽喉科でも診てもらうっていうのはどうでしょうかね」

「内科へ行って、そのあと耳鼻科ですか……そんなふたつも行かなきゃあいけませんかねえ?」

「あ、いえ。行かなければならないということではありませんけどね、念には念をなんて言葉もありますのでね」

「あの、私仕事を抜け出してきているもので、そんなに時間をとれない……」

「ああ、そうですね。そりゃああなたの身体なんですから、決めるのはあなたですよ。でもね、風邪だからって侮ってはいけませんよ。風邪をこじらせて肺炎になったり、気管支炎になって、それが長引いてしまって、なんて方もいますからねえ。ほら、ら、あのお年寄りをご覧なさい。最初は風邪だと思っていたら肺炎にかかってしまって、もう何日も入院してたんですけどね、ようやく退院できるところまでになったみたいですけどね」

「ははあ。そうなんですか……」

「ちょっと、口を開けてみてください」

「「え? 口を?」

「そうです。喉を見せてください。ほら、ああーんって」

「ここでですか?」

「そうです。ここで」

 私はいきなり診察がはじまったので驚いたが、まぁ話が速くていいや、あんなに待っている人がいるのにと思って、入口を入ったすぐのところで突っ立ったまま口を開いた。

「ああーん」

 男は私の口の中を覗き込みながら、真剣な顔で言った。

「やはり少し喉の奥が腫れていますね。これはやはり耳鼻咽喉科にも診せたほうがよろしいかと」

 私は口を閉じて訊ねた。

「あの、先生は内科のお医者さんで?」

「いえ、違いますよ。 内科はニ階ですのでね。でもその前に受付をしなけりゃあなりませんよ。ほらそこ。健康保険証は持ってきましたか? そこの番号札をとって、それから受付に行くんですよ。じゃあ、何かありましたらまたお声をかけてくださいね」

「そうですか。で、先生は耳鼻咽喉科の?」

「いえ、それも違います」

「じゃあ、先生は何科のお医者さんなんです?」

「ああ、私? 私はただの付き添いですよ。ほら、さっきの退院する爺さんを迎えにきた奥さんについてきただけです。いえ、長い時間待たされてたところへあなたの姿が見えたもので。気になりましてね。ではまた」

 なんだ? 医者どころか病院の人間でもない? 私はいったいいま誰となにをしてたんだ? 早く受付して待合で並ばなきゃあ。ありゃなんなんだ、おせっかいおじさんか? なんなんだ、この無駄な時間は……。

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第六百七十三話_short 猫に噛まれる [metamorphose(変容)]

 公園に猫がいた。そっと近づいていくと、逃げるかと思いきや、すりよってきた。きっと最近まで誰かに飼われていたんだろう。すごく人懐こくていい猫だ。抱き上げても逃げようとせずに大人しくされるがままになっている。猫好きの俺だが、こんなに従順な猫ははじめてだ。

 肉球を撫でてやろうと前足をみると詰めがすごく伸びていて、今にも肉に食いつきそうだった。たまたまバッグの中に爪切りを持っていることを思い出した俺は、バッグから取り出して猫の爪をきってやることにした。ところが……

 爪を切ろうとすると、あんなに従順だった猫が急に暴れだした。俺は無理やり抑え込んででも爪を切ってやろうとしたのだが、猫はフーッ! と怒り出し、ついには俺の指に噛みついて逃げて行ってしまった。

「痛ーっ!」

 猫の歯だ。傷は大したことないけれども、案外深いらしい。みるみる血が滲み出てきて痛み出した。が、まぁ、そんなものは慣れっこだ。犬や猫が大好きな俺にとって、そのくらいのことはよくあることで、別に騒ぎたてもしない……はずだったが。

 二日目。異変を感じた。どうにも噛まれた跡がじんじん痛むのだ。薬を塗って絆創膏を貼っているのだが、いつまでも痛い。傷口をみると、別にどうってことなない。小さな穴はふさがりかけている。

 先ほど異変と言ったわけだが、猫に噛まれて異変が起きるなんて言うと、傷口から何かが広がって、やがてその周りに毛が生え始め、俺の爪が猫のように伸び始めて……おそらく噛まれた俺が次第に猫に変身していくホラー話だと思っただろう? 残念ながらそうではない。

 さらに三日ほど過ぎて、俺はあの猫がいる公園に行った。するとやはりいた。前と同じ当りの草むらの影に、猫のサイズではあるが俺そっくりの裸の男が足を広げて舌で体中を舐めているのだった。 

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第六百七十二話_short 凡庸の悪魔 [philosophy(思惑)]

「ええーっと、次はこいつの番」

 そう言いながら赤いレバーを引こうとするのを見て私は言った。

「ちょ、ちょっと待ってください。そのレバーを引くとその人の寿命が尽きるんですよね?」

「そうや」

「しかし、なぜその人が? あんなに頑張って努力しているではないですか!」

 するとやつは答えた。

「なんでって……順番やがな」

 順番って……そんなことで人の命を奪ってしまうのか? 私はさらに引きさがった。

「順番って……そんな誰かが勝手に決めたことじゃあなくって、実際にあの人の生きざまや頑張りを見て決めましょうよ」

 やつはじろりと私を睨んで言った。

「あほか。そんな必要ないで。ほれ、ここに、マニュアルに書いてるんやで。この通りにしといたらええねん。アホなこと考えんでええで」

 天上で人の命を司る者でさえ、近頃は考えようとはしないんだ。なにが正しくて、我々はどうすべきなのかを。

 凡庸の悪魔は神の世界にまで巣食っているという、平穏無事過ぎる世界。

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第六百七十一話_short お仏壇の前で [comedy(笑噺)]

 チンチーン。

 富子は仏壇の前で手を合わせた。毎朝こうやて親から受け継いだご先祖様にお水を備えてお線香に火を点けるのがもう長年の習慣になっている。いまどき若い世帯で、と言っても富子はもう五十を過ぎているのだが、仏壇のある家も少なくなったし、律義に毎朝お参りをする人も少なくなったというが、一方ではこうして律義に仏壇を守っている人もいるのである。

 だが、富子は習慣だけでそういうことをしているわけではない。毎朝仏壇に向かって祈り、願うことが大事だと考えているのだ。つまり、「願えば叶う」と思っているのだ。それと少々の愚痴をこぼすひと時でもあった。

 しばし手を合わせた後、仏壇の前に置かれた夫の写真を見つめながら、富子は軽い溜息をついた。

「はぁー。それにしても暑いわねえ。今年も残暑って厳しいのかしら」

 誰に言うともなく、いや、夫の写真に向かって独り言をいう。

「それに、景気回復だなんてもう何年もいわれているのに、さっぱりよくならない。私ごときの働き口ではちっとも豊かになんてならないわ。なんかこうもっと大きなお金になるような話はないものかしらねえ」

 言っても仕方のないようなことが口元からこぼれる。

「もう少しこの人がしっかりしてさえいてくれたらねえ。ウチの経済はもう少しマシだったんじゃあないかって、思ってしまうわ。ほんとうにこの人ったら、要領悪い、働き悪い、頭悪い、性格悪い、顔悪い、口臭い……あら? これは違うか……なんにしてもなんでこんな人と結婚しちゃったのかしらねえ……」

 富子が言い終わるとしばらく蝉の声だけが聞こえていたが、後ろの方からためらいがちな声がした。

「なぁ、富子。ぼちぼちやめてくれないかなあ。そんなところにわしの写真をおいて厭味ったらしく愚痴をこぼすいやがらせは」 

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第六百七十話_short 空虚な関係 [ordinary day(日常)]

「なぁ、ちょっと」

無駄だと知りつつ声をかけてみたが、やはり返事はなかった。

夫婦になってもう三十余年、仲睦まじい夫婦だなんて言われていたはずなのに、どこかでボタンをかけ間違えてしまったのだろう、いまや口もきかない、返事もしない、お互いの存在を無視し合うような関係になってしまった。

最初は重苦しい空気を感じてなんとかしなければともがき苦しんだのだが、なにをどのようにしても妻の態度は変わらず、そのうちに慣れてしまった。

そもそも夫婦なんてものは、長年連れ添ううちにお互いが空気のような存在になってしまうというようなことは世間でもよく言われることで、うちにしてみても案外特別なことでもないのかもしれない。だいたい会話なんてものだって、長年一緒に暮らしていればとりたてて話すことなどなくなってしまうし、考え方も似てくるから相手がなにを考えているかなんてツーカーでわかるというようなものだ。家に帰ると全く口をきかない旦那なんて大昔からいたものだ。ところがうちの場合は夫ではなく妻の方が口をきかない。むしろ私は時折声をかけてみるのだが、返事どころか反応も帰ってこないのだ。つまり、無視され続けているということだ。

いくら慣れてきたといえども、元来人から無視されるのがだいきらいな私にとって、本当のところはこれほど辛いことはないのだ。

「なぁおまえ。たまには返事くらいしたらどうなんだ?」

 虚しく言ってみる。だがやはり返事はない。妻は黒枠の中で笑いかけているだけなのだ。

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