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第六百九十四話_short 慮る [poetic(詩情)]

 風で揺れているのかと思っていた。

 だが、風は微とも吹いていないのだった。むしろ少しくらい風があった方がもう少しは心地よく過ごせるだろうにと思っていたほどなのに、なぜか 私の隣に佇んでいる樹木がざわざわと枝をふるわせている理由は風のせいだと思い込んでいた。

 よく見ると枝をふるわせているのは隣の樹木だけではなく、その隣も、その向こうもすべての樹木が風に震えているかのようにかすかに揺れている。

 風が吹いているのでなければ、いったいこれらの樹木はどうして揺れているのだろうか。不思議に思った。だが、それらは自らの力で揺れているようだった。

 動物は動き回ることで命を営んでいる。一方、植物は動いたりなどしない、そう思われているが実はそうではないのだと思い当たった。樹木にも命はあるし、少しずつ成長していくに連れて僅かに動いているように見えるし、そうじゃなくても微々たるものではあるが光や水を求めて動いているのだ。動物たちがそれを観察しようと思えばいつまでもじっと見つめていなければならないが、人間が持つ微速度カメラで撮影をすると動いているのがわかることだろう。

 理屈ではそういうことなのだが、ではなぜ私には樹木の動きが見えているのか。つまり私は微々たる動きを観察できるほど隣の樹木を眺め続けているということになる。

 まるで早回しビデオを見ているように、樹木がざわざわと動く。普通ならそんなものは見えないはずなのに。

 時間。そう、時間が高速で流れているのに違いない。

 いや、そうではない。私の中の時間がゆっくりと止まったように流れているのか? 

 だから樹木と同じ時間を共有することによって彼らの動きがわかるようになっているのかもしれない。

 ということは、誰かが私を観察したとしたならば、私もまた植物と同じようにひとところに佇んだまま、固まっているように見えていることだろう。

 はて? 私はおぼろげながら何かがおかしいことに気がついた。

 私の現在、私の過去、私の生まれ、私の成長。

 そう、あいまいな記憶ではあるが、私はここしか知らない。幼いころにどこか遠くで生まれたような気もするのだが、物心ついたときにはもうここにいて、隣の樹木を眺めていたような気がする。

 手や足を見ようとする。だが、頭は動かないし、そもそも手や足がどれなのかもわからない。感覚の届く範囲で自らを観察する。と、驚いたことに私は隣の樹木と非常によく似た姿をしていることに気がついた。

 知力。思考。感情。

 そのようなものは動物にしかないと思われがちだが、そうではない。その証拠に私はいまここで世界を感じているのだから。 

樹木.jpg 

                      了


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第六百七十五話_short ノー・リーズン [poetic(詩情)]

 なぜ、スピルバーグ映画「ET」の宇宙人は茶色なのか? 理由はない。

 なぜ、「ラブストーリー」の二人は、激しい恋に落ちるのか? 理由はない。

 なぜ、オリバー・ストーンの「J.F.ケネディ」は突然誰かわからない相手によって暗殺されたのか? 理由はない。

 トビー・フーパーの「チェーンソー殺人鬼」が手を洗う場面がないのか? 理由はない。

 ポランスキーの映画「ピアニスト」は、なぜ浮浪者のように生きなければならないのか? 理由はない。 

 人生には理由のないことがいっぱいだ。

 なぜ、我々は周りの空気を見られないのか? 

 なぜ、我々はいつも考えているのか? 

 なぜ、世の中にはソーセージの好きな人とソーセージが嫌いな人がいるのか?  理由はない。

 

 あるB級映画の冒頭で述べられるこんな一連の文言を見ながら思った。 

 うーむ、確かに世の中には理由のないことがいっぱいあるような気がする。しかし、こんな言葉も聞いたことがあるなぁ。

「世の中のすべてのことには理由があるのだ」

 理由がないように見えても、すべての事柄には理由があるのだというが、いったいどっちがほんとうなんだ? 

 人はなぜ生まれてくるのだろう。

 人はなんのためにいきているのだろう。

 ……理由はない。というか、答えがない。

 少なくとも言えることは、理由が見つからないから、宗教が生まれ、哲学が生まれ、心理学が生まれ、文学がはじまった。 

 そしてそれらのいくつかが、「すべての事柄には理由があるのだ」と言うようになった。

 輪廻の蛇のように、あるいはヒヨコと卵のように、

 理由がない世界と、すべてに理由がある世界が回り続けている。 

 ぐるーり。ぐるーり。ぐるーり。 

ringukaeru.jpg

                      了

(引用:映画Rubber)

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第三百二十ニ話_short 忘れてしまった誰か~黄色いクマの言葉③ [poetic(詩情)]

「もし別れのときが来たら、心の中にボクを入れておいて。そこにずっといるから」

 この台詞はよく覚えている。目の前の黄色いクマのぬいぐるみがそう言ったのだ。

 当時のぼくはどういうわけだかクマのぬいぐるみが好きでたくさん持っていたが、中でも黄色いクマはいつも傍に置いて放さなかった。ぬいぐるみがしゃべるわけはないので、誰かが黄色いクマのぬいぐるみを持って腹話術みたいにしてしゃべっていたのだと思う。あるいは自分で持ったぬいぐるみに、なんどもテレビで見ているうちに覚えた台詞を言わせていたのかもしれない。

 大人になったいま、もちろんクマのぬいぐるみを沢山持っていたりはしないのだが、ふと思い出す。あの黄色いクマはどこにやったっけ? いつの間にかどこかにやってしまった。それに……クマを持ってぼくに話しかけていたのは誰だったのだろう? 父の元を去ってしまった母だったのか、隣に住んでいた女の子だったのか、学校の同級生だったのか……いまとなっては名前すら忘れてしまった誰か。

  ただ黄色いクマの姿とあの台詞だけがいつまでも記憶の中で輝いている。

                                     (クマのプーさんの言葉より)

                      了

 

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第四十六話_short 鼠気質 [poetic(詩情)]

 ああ忙しい。早く片付けないと、この仕事。

 朝から晩まで働きづくめだが、あまりそれが苦にならない。

「おいおい、ちょろちょろすんなよ」

 目ざわりだと言われることもあるけれども知ったことか。俺はやるべきことをやってるんだ。鼠みたいだなと言われたりもするが、それがなんだ。そうだよ俺は鼠だ。鼠小僧だよ、なにが悪い? 人間、こうやって一生懸命働き続けるのが美徳というものだよ。

 そうして毎日働き続けていたある日。

 ガチャン!

 大きな音とともに身動きが取れなくなった。

「しまった! 鼠捕りにかかってしまった!」

 これもまた鼠という生き物の定めなんだな。

                                   了


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第四十五話_short 猫志向 [poetic(詩情)]

「また居眠りしやがって。ちゃんとしろよ」

 言われてそっと片目を開けるが、まだ身動きはしない。面倒くせえ。

「またかよ。こいつ言うことをきかないな。首にするぞ」

 どうぞ、お好きなように。だけど、いっそう面倒臭いことになる前にト、のそのそと上体を持ち上げて欠伸をする。

「ったく。お前は従順な犬田とは大違いだな」

 当たり前だ。私はあのどんくさい男とは違う。しなやかに生きているのだ。

「首にできないのが悔しいよ。お前のその独特の魅力は誰にも真似ができないんだものな。しかし、いい加減に仕事しろ」

「はいはい、わかりましたよ、ボス」

 ようやく重い腰を上げ、仕事にとりかかる。だがその前にまず身づくろいしなきゃ。

 私はゆっくりとおめかしをはじめる。

                                   了

 

 


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第四十四話_short 犬体質 [poetic(詩情)]

「ほら、取ってこい!」

 そう言われて慌てて投げられた玉を追いかける。人に命令されて実行するのは案外大好きだ。

 言われたとおりに取ってくると、また玉を投げてもらえるので、嬉しくなってまた追いかける。

「お前みたいな奴がいると助かるんだよ、私は」

 懸命に頑張ったところで、成果は全部持っていかれるとわかっちゃぁいるんだけれども、こればかりは体質だからしかたがない。ささやかな褒美をもらえるだけでいい。

「ほら、もう一回!」

 上司の命令に、僕はまた尻尾を振って飛んでいく。

                                   了


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第二十九話_short 箱 [poetic(詩情)]

 私はいつも箱で移動する。家から会社へ行くときも、駅から駅へ行くときも、一階から上階へ上がるのも。

 私は箱に乗って移動する。

 箱には覗き窓があって、注意深く外の様子を眺めながら、ぶつからないように、怪我をしないように、箱は目的地に向かって移動する。

 人はみんな箱に乗って移動する。

 その箱は四角とは限らない。たいていは丸い箱……これを箱と呼ばせてもらえばだが……その下には四角に近い胴があって、脚と呼ばれる棒状のものを動かして移動する。

 私たちはただ箱の中にいて、窓から覗きながら箱に指令を出して動かし、その行く末を見守っている。

 人はみんな箱の中にいて、外の世界を眺めているのだ。

                                   了


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