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第七百話_short 洗脳される [philosophy(思惑)]

 二年ほど前の話だが、売れっ子のお笑いタレントが急にテレビから姿を消して隠遁生活を始めた。しばらくして同居している占い師に洗脳されて人間が変わってしまったという噂が広がった。

 それまでも新興宗教に入信した若者がことごとく洗脳されてすっかり変わってしまったという報道があったが、私はこの「洗脳」という言葉はとても特殊なものだと思っているし、まさか自分の身の周りでそのようなことが起きるはずがない。まして自分が誰かに洗脳されてしまうなんて考えられないと思っている。

 たとえばマッドサイエンティストの毒牙にかかって、頭にわけのわからない電極がついたヘルメットを被せられて、無理やり洗脳されてしまうというようなシーンを思い浮かべはするが、教祖や占い師の話を聞いて人格が変わってしまうなんてあるわけがない、と思っている。

 自分がしっかりしてさえいれば、そんな詐欺のような言葉に引っかかるはずがないではないか。なぁ、そうだろう?

 私は今日はじめて会うことになった見知らぬ男になぜかこんな話をはじめていた。たぶん、この男になにか売りつけられるのではないかしらという心配がどこかにあったからかもしれない。

 そもそも、面白い男がいるから紹介したいと仕事先の人から言われて、イタリアレストランで待ち合わせをしたのだが、結局紹介者は都合が悪くなり、見知らぬ同士で初顔合わせをするはめになったのだ。

 だが、案外人のよさそうな男で、私は一気に警戒心を解いたのだけれども、酒が入った私は妙に饒舌になってしまったようだ。

 男は、洗脳にまつわる私の意見に異論をはさむこともなく、楽しそうに耳を傾けていたが、私の話が一段楽したとわかったのだろう、にこにこしながら言った。

「あなたは本当に楽しいお方ですね。いやぁ、とても言い方だとは聞いていましたが、こんなに知識の豊富な素晴らしい方だとは思いもしませんでした。 あなたのような賢い方を紹介いただいて、ほんとうにあの方に感謝しますよ。いや、この出会いは神様に感謝した方がいいのでしょうか?」

 私は調子に乗って妙な話をしてしまったなと公開しかけていたところだったが、神に感謝とまで言われてすっかりいい気分になった。

「頭がよくって弁舌さわやかで、話し相手を楽しませてくれる、あなたのような方にはなかなかお目にかかれないんですよ」

 男はずいぶんと私に興味を持ってくれたようだ。

「私はあなたのような方と知り合うのをずっと待っていたんですよ。実はね、私、ちょっとした商売をしているのですが、ここのところ少し行き詰っていて、助けを求めていたのです。あなたのような方に是非、力を貸していただきたいのです」

 あんまりいいことばかり言うものだから気分がよくなっていたところに助けてほしい等と言われて断れる人間等いるのだろうか。私は身を乗り出して大きく頷きながら「私なんかにできることなら」と月並みな返事をしていた。

「やや! ありがたい。あなたの力添えをいただいたらもう、こんなうれしいことはありません。実はね、私は壺を販売していまして……幸せの壺っていうものなんですが……是非これをあなたのような方に持っていただいてね、その効果を実感していただきたいんです。必ずいいことが起きるんですから! そしてあなたが実感されたことをあなたのお友達にも広めていただきたいのです。あなたのような方に口添えいただければ、必ずこの幸せの壺を持ちたいと思うはずなんです。ええ、あなたには超格安で壺をお譲りしますとも。その、お試し価格ってやつです。ああ神様、ありがとう! あなたは本当に素晴らしい方だ!」

 私たちは改めて乾杯を交わし、私は重たい壺を下げて帰ったことは言うまでもない。 

洗脳.png

                      了


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第六百七十二話_short 凡庸の悪魔 [philosophy(思惑)]

「ええーっと、次はこいつの番」

 そう言いながら赤いレバーを引こうとするのを見て私は言った。

「ちょ、ちょっと待ってください。そのレバーを引くとその人の寿命が尽きるんですよね?」

「そうや」

「しかし、なぜその人が? あんなに頑張って努力しているではないですか!」

 するとやつは答えた。

「なんでって……順番やがな」

 順番って……そんなことで人の命を奪ってしまうのか? 私はさらに引きさがった。

「順番って……そんな誰かが勝手に決めたことじゃあなくって、実際にあの人の生きざまや頑張りを見て決めましょうよ」

 やつはじろりと私を睨んで言った。

「あほか。そんな必要ないで。ほれ、ここに、マニュアルに書いてるんやで。この通りにしといたらええねん。アホなこと考えんでええで」

 天上で人の命を司る者でさえ、近頃は考えようとはしないんだ。なにが正しくて、我々はどうすべきなのかを。

 凡庸の悪魔は神の世界にまで巣食っているという、平穏無事過ぎる世界。

aihiman.jpg 

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第六百十一話_short 気づき [philosophy(思惑)]

 いつかはお父さんお母さんのような立派な人間になれると思っていた。

  誰にでも優しくて、人から信頼され、世の中の役に立つような、お金持ちとか地位が高いわけではないけれども、人として尊敬できるような人間、それがお父さんでありお母さんなのだと思う。

 でもまだ僕はそうはなれていないし、どうやらこの先もお父さんやお母さんのような人間にはなれないとわかった。

 みんな気づいているのだろうか。たぶん気づくどころかそんな風に考えてすらいないのだと思う。毎日食べることや眠ること、遊ぶことだけに夢中になって、そんなことだけで一日を終えてしまって、そういう意味のない一日を繰り返す歳月を過ごしていく。それが普通の生き方なのだろう。

 でも僕は考えてしまったのだ。どうすれば単調じゃない生活ができるのだろう。どうすればより意味のある一生を送れるのだろう。そんなことを考えなければよかったのに。そんなことは考えても無駄なことなのに。

 人はそう言うのを哲学と言うらしいけど、僕らには関係なかったはずだ。毎日食べて寝て遊んで暮らしていればよかったのだ。

 でも僕は気づいてしまったのだ。一旦気づいてしまうともはや戻ることなんてできない。そのような考えに悪魔のように取り憑かれてしまうからだ。

 どんなに努力しても、どんなにお父さんにお願いしても、無理なものは無理なのだ。僕はお父さんやお母さんのような立派な人間には金輪際なれないのだ。

「さぁ、でかけようか」

 お父さんが僕に言った。

 僕は思考を中断して玄関で待っているお父さんのところに駆け寄る。

 お父さんはニコニコしながら僕に首輪を取り付けた。

DVC00074.JPG

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第二百八十話_short どうかしてるぜ [philosophy(思惑)]

 大通りの向こうからプラカードを持った集団がシュプレヒコールしながらこちらにやってきた。

「憲法を勝手に解釈するな」

「集団的自衛権反対!」

 ドンドンドドン、ドンドンドドン! 鳴り物入りで近づいてくる。近頃話題のアレに物申す集団のようだ。政治に関しては知識の薄い私でも日々耳に入ってくる問題だが、反対するべきなのか支持するべきなのか、いまひとつはっきりできない問題だ。しかしなにもしないでいる私よりは、ああやって行動に移している市民は偉いなぁと漠然と思う。

 すると交差する通りから別の一団がやってきた。

 ドンドンドドン、ドンドンドドン!

 こっちも鳴り物入りだ。しかも同じような太鼓のリズム。

 ははぁ、同じ意見を持った市民がここで合流するのだなと思ってこちらの一団が持っているプラカードや横断幕を見ると違うことが書いてあり、叫んでいる内容も違うようだ。

「原子力再稼働反対!」

「ノーモア原発事故!」

 やがて二つの集団は交差点で合流してひとつの集団になった。

「改憲反対!」「原発反対!」

「武力行使を許すな!」「原発依存を許すな!」

「反対!」「違憲はイケン」「反対の賛成!」「賛成の反対!」

 全然違うシュプレヒコールが混ざってわけがわからない。なんだこれは。ふたつの集団は……

 同化してるぜ!

                          了

 

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第四十七話_short 懺悔 [philosophy(思惑)]

 懺悔室に入った若い男が告解した。

「世の中に不幸な人がたくさんいるのは、私のせいなのです」

 神父が訊ねた。

「どうしてそんな風に思うのですか?」 

 男は涙を流しながら答えた。 

「なぜなら……私が、人々の幸せを願ってしまったから、不幸な人が生まれてしまったんです」

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第三十四話_short 死に際 [philosophy(思惑)]

「ああ、まだ死にたくない」

 ベッドに横たわった老人がそう言うと枕元に神が現れて言った。

「なぜだ。お前はもう充分に生きたではないか」

「充分に……? いや、まだやり残したことがある。だから死にたくない」

 神は不思議そうな顔をしてさらに訊ねた。

「ふうむ。百歳まで生きていまさら何をやり残したというのだ?」

 老人は悲しそうな顔をして呟いた。

「人生で何をやるべきなのか……人生の目的がまだつかめていないんだ」

                                   了


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