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第七百六十一話_short バージョンアップ [metamorphose(変容)]

 なにか新しいことがしたい。

 時々だが、唐突にそういう思いがわいてくる。たぶん変わり映えのしない日常に飽きてくるからだと思う。

 世間を見ているとみんななにかしら楽しそうに暮らしていて、ふと我に帰った時に自分にはなにもない、何もしていないなぁと感じたりもするからかもしれない。

 なにか新しいことってなんだ? 思いつくことはいろいろある。たとえば音楽だ。歌も楽器もできない私は、これまで音楽というものは聞くだけのものだった。だが、最近ではパソコンやスマホなどで簡単に音楽をつくることができると言うではないか。そんな話が耳に入るたびに、いつかそういうのをやってみようと思うのだが、これまで試したことはなかった。

 私はパソコンをネットにつないで、「音楽作成ツール、無料」と打ち込んでみた。とりあえずはお金をかけずにできることを探してみようと思ったのだ。すると数件答えが現れた。そのなかのいくつかを読んでみて、これはと思えた無料ソフトをダウンロードして自分のパソコンにインストールした。書かれていることを読んだだけでは知らない用語だらけでよくわからない。既に挫折しそうになったが、とりあえず触ってみなければわからないじゃないかと思い直したのだ。

 新たに手に入れたソフトを立ち上げようとクリックすると、なにか注意書きが現れた。

「このソフトを使用するにはムービーアプリXの新しいバージョンが必要です」

 ムービーアプリXとはデフォルトで入っているソフトのはずだが、その新しいのが必要ならしい。案内の下にアップロード先がリンクされていたので、それをクリックして、Xのバージョンアップを試みた。するとまた別の注意書きが現れた。

「ダウンロードされたアップデータを解凍するには、次の解凍ソフトが必要です。こちらからダウンロードしてください」

 なんだかめんどくさいなと思いながら、指示されている解凍ソフトをダウンロードして開けようとすると、また別の注意書き。

「この解凍ソフトは新しいOSに対応しています。恐れ入りますが、起動ディスクのOSをアップグレードしてください」

 またか。要は、新しいことをするためには新しいなにかが必要だということなんだな? 確かに長いことパソコンのOSは触っていない。私は言われるままにOSをバージョンアップすることにした。幸いこれも無料で行えるようだった。

 OSのアップデータをダウンロードして読み込み、無事インストールを終えると、パソコンは自動的に再起動した。

 新しいバージョンのOSで立ち上がったパソコンの画面は、いままでと少しだけ違っているようだった。画面に並んでいるアイコンのデザインや、全体のフレームの感じ、どれもがなんとなく新しさを感じさせた。

 パソコンが立ち上がるとまたしてもなにか注意書きが現れた。

「アップグレードありがとうッございます。この新しいOSをご利用になるためには、ご利用者自身もアップグレードされていなければなりません。下記リンクよりダウンロードしてご自身のアップグレードを実施してください」

 え? 利用者自身のアップグレード? どういうことだろう? 私がもっと変わらないといけないってこと? それにしてもこのリンクからどうやって?

 私はさっぱりわけがわからなかったが、ここまで進めてきたんだから、最後までやらなければと、言われるままにリンクボタンをクリックした。

スーパーサイヤ人.jpg 

                      了


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第六百八十一話_short 変わりゆくふたり [metamorphose(変容)]

 南国の海は穏やかで二人の前途を表しているかのように思えた。孝夫の収入はまだまだ少ないが、若いふたりならきっとうまくやっていける。そう信じてささやかな結婚式を挙げたのだ。いまどきの新婚旅行は海外なのだろうけれど、堅実なふたりは予算のかからない国内旅行を選んだ。だがそんなことはなにも問題ではなかった。ふたりが一緒にいるだけでうれしかったし、これから未来に向かって生きていくスタート地点としては最高の旅に思えた。

「ねぇ、知ってる? 人間の細胞は毎日入れ替わってるのよ」

 海を見ていた幸子がなにげなく言った。

「ああ、それ、聞いたことあるよ。だけど本当かな」

「ほんとうよ。毎日食べてるものが新しい細胞の材料になるのよ」

「なるほど。確かにその通りだ」

「だからね、よい素材を食べないといけないわ」

「ふうん。悪い質の食べ物が材料になったら、悪い質の身体になっちゃうのか」

「そうよ。孝夫さん、これまでと違って、私がいい素材のお料理雄食べさせるからね!」

 孝夫はうふふと笑った幸子を抱きしめながら自分撮りツーショット写真に収めた。

 旅行から帰るとふたりの日常生活がはじまった。孝夫は懸命に働き、幸子も夫を支えながら自分も働き、なおかつ豊かな質のいい食生活に気を遣った。

 質のいい食物を摂取することによって質のいい細胞ができるというのは実に理にかなった話だ。また、毎日細胞が入れ替わるということも事実だ。確かに生物は日々細胞が生まれ変わり、少しずつ変化している。日々の変化は目に見えないほどのものだろうが、長い目で見れば確かに変化しているのだ。たとえば老化もその一つであるし、肥満や痩身、頭脳や筋肉の発達や衰えなど、身体じゅうどこでもが少しずつ変化しているはずなのだ。

 新婚旅行から十数年。ふたりはまだ平穏に暮らしていたが、それでもどことなく以前と違ってきているということは自覚していた。

「俺たち、もう十年も一緒にいるんだな」

「そうよ。いまさらなによ?」

 食卓でのさりげない会話だ。

「ところで、こないだ引き出しからこんな写真が出てきたんだけど」

 どこかの海岸で撮ったと思われる男女のツーショット写真。楽しそうに笑い合っている。孝夫は見覚えがある気がしたが、思い出せないでいるのだった。

「このふたりって、誰だっけ?」 

「なに言ってるのよ。忘れちゃったの?」

 孝夫は思い出せないでいたが、忘れたなんて言ってしまうのが恐ろしかった。 

「私たちの新婚旅行じゃないの」

「ええっ? 嘘だろ?」 

 どう見ても自分たちではないように思えた。十年前だとすれば確かにいまよりずっと若いのは当たり前だが、それにしても今の自分たちとはまるで違う姿。幸子はこんなにも瑞々しく美しかったのか? そして俺自身も。 

 そこではじめて俺たちはお互いをまじまじと眺め合った。忙しい日々の中でこんなにもじっくりと見つめ合ったことはなかったというほどに。そしてふたり同時に口を開けた。

「あなた……誰?」 

 人は少しずつ変化する。それが歳月による経年変化なのか、摂取した素材による細胞の変化なのか分からないけれど。

細胞.jpg

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第六百七十三話_short 猫に噛まれる [metamorphose(変容)]

 公園に猫がいた。そっと近づいていくと、逃げるかと思いきや、すりよってきた。きっと最近まで誰かに飼われていたんだろう。すごく人懐こくていい猫だ。抱き上げても逃げようとせずに大人しくされるがままになっている。猫好きの俺だが、こんなに従順な猫ははじめてだ。

 肉球を撫でてやろうと前足をみると詰めがすごく伸びていて、今にも肉に食いつきそうだった。たまたまバッグの中に爪切りを持っていることを思い出した俺は、バッグから取り出して猫の爪をきってやることにした。ところが……

 爪を切ろうとすると、あんなに従順だった猫が急に暴れだした。俺は無理やり抑え込んででも爪を切ってやろうとしたのだが、猫はフーッ! と怒り出し、ついには俺の指に噛みついて逃げて行ってしまった。

「痛ーっ!」

 猫の歯だ。傷は大したことないけれども、案外深いらしい。みるみる血が滲み出てきて痛み出した。が、まぁ、そんなものは慣れっこだ。犬や猫が大好きな俺にとって、そのくらいのことはよくあることで、別に騒ぎたてもしない……はずだったが。

 二日目。異変を感じた。どうにも噛まれた跡がじんじん痛むのだ。薬を塗って絆創膏を貼っているのだが、いつまでも痛い。傷口をみると、別にどうってことなない。小さな穴はふさがりかけている。

 先ほど異変と言ったわけだが、猫に噛まれて異変が起きるなんて言うと、傷口から何かが広がって、やがてその周りに毛が生え始め、俺の爪が猫のように伸び始めて……おそらく噛まれた俺が次第に猫に変身していくホラー話だと思っただろう? 残念ながらそうではない。

 さらに三日ほど過ぎて、俺はあの猫がいる公園に行った。するとやはりいた。前と同じ当りの草むらの影に、猫のサイズではあるが俺そっくりの裸の男が足を広げて舌で体中を舐めているのだった。 

猫人間peg.jpeg 

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第三百十六話_short ありのままで [metamorphose(変容)]

「ありのままの君でいいんじゃないかな」

 そう言われて少し違和感を覚えた。

 彼は昔からの友人で、いまの僕を知っているし、昔の僕も知っている。そして友人になりたての頃にだって同じような言葉を聞いたことがあるような気がする。彼は優しいのだ。それにたぶん、許容量が大きいのだ。

「あなたはそう言ってくれるけど……」

 ありのままの僕……本来の自分でありたい。子供の頃からそう思っていた僕はしかし、一方ではそのときの僕は本来の自分ではないと感じていた。だからいまに至るまでいつも本来の自分を探し続け、取り戻そうと努力した。

 ある時は髪型を変え、ある時は持っている服を全て捨て去り、 自分の居場所を町中に探した。ある日鏡を覗き込んだ僕は、そこに映っているのは僕じゃないと思った。思いつめたあげく、浅黒い肌を薬品で漂白した。それでも満たされないままに自分を取り戻す手術を受けるためにお金を貯めこんだ。

 美容整形が最善の方法なのかどうかはわからない。だけど事故や病で失った相貌や乳房の再建術が示すように、生まれつき与えられなかった本来の自分の姿に近づけることはできると信じた。そして事実そうなった。

 顔中を覆っていた包帯が取れて、一日中鏡を眺めながら満足した。ああ、これがほんとうの姿なのだと。 

 しかし、成功は次の成功を求めるものだ。私はまた費用を貯えて次の手術を受けた。そしてその成功はさらに自分自身の追求へと駆り立てた。 

「ねぇ、あなたはそう言うけど、わからなくなっているんだ。ありのままの自分ってなんなのか」

 彼は笑って答える。

「そんなこと気にしなくていいんだよ。誰にもわからないんだから」

「そんな、適当な」

「だってそうじゃないか。いまの自分を否定してなんになる? いまの自分がいいんだ、そのままでいいんだって考えることこそ大事なんじゃないのかな」

 彼はいつだって正しい。間違った言葉を聞いたことがない。なのだけれども、なんだか僕を慰める屁理屈のようにも感じるのだ。

「ちょっと、さわらせてくれる?」

 彼が遠慮がちに右手を差し出すので、僕は小さくうなづいて言った。 

「自分でもわからないんだけど……なんでこんなことしたのか」 

 言いながら僕は先週女のように大きく膨らませたばかりの胸を突き出した。 

                      了

 

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第二百十七話_short コンシャス [metamorphose(変容)]

 暗闇の中で目をつぶっているのだが、夜の静寂の中で物音ひとつないはずなのに、耳の中でシャーッというホワイトノイズが聞こえている。昨日まではそんなことなかったと思うのだけれども、どうも耳の機能がおかしくなったのか、あるいは意識のせいなのかわからないけれども、耳鳴りともいえないような砂嵐のような音が聞こえて眠れない。

 そういえば昨日見たバラエティで著名な学者が言っていた。人間は怪我や病気になるとその幹部だけが妙にクローズアップされて感じるというようなことをだった。

「普段はなんとも感じていない部分なのに、痛いと思うとどんどん痛くなるし、痒いと思うとどんどん痒くなっていく……違いますか?」

 学者の言葉に私は大きくうなづいたのだが、今同じことが耳に起きているのだろうか? いずれにしても変な感じだ。早く眠りたいのに。

 そんなことを考えているうちにいつの間にか眠っていたようだ。

 翌朝、気持ちよく目を覚ました時にはもう耳の中の音は気にならなかった。しかし……

 大きく伸びをしながら窓の外に向けられた私の目は大きく見開くしかなかった。

 外はいいお天気だ。普通ならすがすがしいばかりの青空に、何か意味不明な透明なものが無数にふわふわ浮かんでいる。ここはマンションの十五階だ。そんな空中にお化けかクラゲのようなものが無数に浮かんでいるなんて……昨夜耳の中にあったホワイトノイズを思い出した。これはあれの視覚版なのか?

 私の目に異常が起きているのか、あるいは精神なのか。どこかがおかしくなってこんなものが気になるように見えているのか? 私は茫然と窓の外を眺めるばかりだった。

                          了

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第百話_short メタボルフォーゼ [metamorphose(変容)]

 変化は想像以上にゆっくりとやって来ていた。

 いっそザムザのように目覚めとともに虫に変わっていたならどんなにか受け入れやすいことだろう! しかし現実にはザムザほど唐突に変化が訪れることはないのだ。

 本人すら気がつかないのだから、周りの誰もが気づくわけがない。毒物だって毎日少しずつ飲まされたら知らないうちに病死のように逝ってしまうのだ。

 しかし確実にそれは起きていた。

 去年身にはいていたパンツも、スマートに着こなしていたスーツも、もはや身体にまとえない。

 メタボは静かに訪れていたのだ。

                          了

 


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