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第七百四十五話_short 犯人は誰? [suspense(不安)]

 目の前にはあの憎らしい課長が横たわっていた。ほとんどの従業員はとうの昔に退社してしまっており、薄暗いオフィスにいるのは血を流して倒れている課長以外には三人だけだった。

「ああ~やっちまったよ~、ど、どうしたらいいんだ?」

 いつも優柔不断な山田がつぶやいた。山田は常々小言ばかりを言われ続けてきた課長を憎みこそすれ、殺してしまおうと思ったことはなかったのに。

「へへ、やりましたよ。やってやりました。ざまぁみろって」

 河村は頭の切れる男で、常に課長からは一目置かれていたはずなのだが、どうやら本当は課長が嫌いだったようだ。いや、能力が高いからこそさほどでもない上司のことを疎ましく思い続けてきたのかもしれない。いずれにしても、課長が死んでしまったいま、死体を取り囲んでいる三人の中で一番すっきりした顔をしていた。 

「……あれ? な、なにがあったんですか? あ、あれ? か、課長は……し、死んでる……どうしちゃった・・・・・・何が起きたんです?」

 日ごろから仕事以外のことばかり考えていて……木村は漫画家志望で本当はそっちで食べていきたいのだが、要領が悪く仕方なくこの会社に勤めることになったのだが、それでも諦めきれずにいつも現実とは違うことばかりを妄想していた……他者から見るとまったく使えないぼぉっとした人間で、いまもいったいなんで自分がこんなところにいるのかさえ定かではないのだった。

「え? ぼ、僕がやったんですか? まさか。え? 本当に?」

 木村は血まみれのブックパソコンを両手で握りしめていることに気がついた。

 今日の午後、課長から解雇をほのめかされ、そこあたりから記憶が定かではない。山田と河村が慰めてくれていたような覚えはあるのだが。

 

 三十分後。河村の通報によって警察が駆けつけ、事情を求められた。

「誰が殺たんだ?」

 訊ねられて、河村と山田は同時に木村を指さしながら言った。

「木村です」

 実際、手をかけたのは木村であり、河村と山田は何もしていない。ただ、残業終わりに山田が課長からたっぷりと絞られたている間、河村は課長にかけやってやるからと木村を待機させ、そのあと三人で課長を取り囲んで話し込むように仕組み、やがて他の従業員がいなくなる頃を見計らって、二人が木村をそそのかした。

 普段はぼぉっとしている割には木村は些細なことに激しやすいことを知っていた河村と山田は、話を混ぜ繰り返して木村が激するように仕向けた。山田が鈍器となるパソコンを木村に持たせて、河村が目で合図したのだ。

 殺ったのは木村で間違いない。残りの二人は真実を言えば殺人幇助だが、本人さえ黙っていれば誰もそれを知らない。むしろ止めようとしたと証言すればよいのだった。

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第七百四十四話_short 息子のお仕事 [suspense(不安)]

 就職もできずにプー太郎をしていた息子がようやく仕事にありついたという。

「で、どういう仕事なんだい?」

 普段から会話の少ない家庭である上に、少しひねくれてしまっている息子は家でほとんど口をきかない。

「……言いたくないよ」

「言いたくないって……就職できたんだろう? どんな仕事なのか教えてくれてもいいじゃあないか」

 子供の仕事内容くらい父親として知っておかないとと思うから食い下がった。

「言うの……恥ずかしいんだよ」

「何を言う。仕事に卑賤などないんだ。恥ずかしがらずに言っていいんだよ。じゃぁ、たとえばどんなことしてるんだい?」

 息子は面倒臭そうに答えた。

「……電話をかけるんだよ」

「ほう、電話でアポとりか。営業なんだな?」

「営業……まぁ、そうかな。そう、アポとりなんだ」

「相手はどこかの会社の営業部とかか?」

 営業部、営業部? 息子は二、三回そう呟いて、ようやくその意味を飲み込んだ。

「ああ、違うね。相手は個人だよ」

「ははぁ、電話販売なんだな。何を売ってる?」

「いや、何も。売るんじゃあなくって、もらうんだ」

「もらうって何を?」

「お金に決まってるじゃないか」

「お金? 何も売らないのに?」

「だって売るものなんてないんだもの」

「売るものがないって……モノじゃあなくてサービスとかではないのか?」

「サービス、サービス……サービス……ああ、そんなようなものかも」

「そんなようなって、どんなサービスなんだ?」

 息子はどんどん不機嫌な顔になっていく。

「もういいじゃん。話したくないよ」

「そんなこと言わずに、もう少し教えてくれよ」

 息子は判ったと目で言ってから言葉にした。

「あのさ、お金持ちの年寄りに電話するんだよ。オレ、借金つくってしまって困ってるって。そんで受け取り場所とか決めてさ、別の者に取りに行かせるんだよ。大金もって孫のためだと思って大金を持ってくるのさ。そんで孫を助けていい気分になるのさ。そう、俺たちは年寄りにいい気持ちをサービスしてるんだ」

 息子はそう言い終わるや否や、自分の部屋に向かった。 

「なるほど、それはいいことをしてるんだな……」

 息子が立派な仕事に就いたことに満足した私は、飲みかけのビールを口に運んだ。 

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第六百三十話_short 家族の秘密 [suspense(不安)]

 大好きな人気作家スティーブン・キング原作の日本未公開の映画をテレビでやるというので、これは是非モノと思って観た。もちろんホラーサスペンスだ。お話は仲睦ましい熟年夫婦の物語だ。ネタばれになっちゃうけれど、大筋を言うと……

 結婚二十五周年の家族パーティーが盛大にとりおこなわれて、子供たちや仕事仲間がみんなで祝っている。夫婦はいつもいちゃいちゃしてて、その夜は若い夫婦のようにベッドで激しくプレイするほどのおしどり夫婦だ。

 ある日、妻が偶然にも車庫のもの入れで犯罪の証拠を発見してしまう。このところテレビニュースで流れている連続殺人鬼に繋がる証拠だ。出張から帰って来た夫が、妻の動向に気がついて、自分が殺人者であることを告白するが、それはもう一人の自分がやっていることで、自分は何も悪くはないし、妻を手にかけることなど絶対にないといい、これまで通り仲良く暮らそうと提案する。しかし妻はいつか夫に殺されるのではないかと妄想したりおそれおののいたり。でも夫の前ではそんな姿を見せずにいつも通りのようにふるまっている。もう二度と人殺しはしないでねなんて言いながら。

 ところが。ここからがネタばれだけど、仲良し夫婦を続けるのかと思いきや、妻は階段を上って来た夫をいきなり突き落として……。その後の後日談も少しあるのだが。

 こういうサスペンスドラマを、人はなぜか好きなんだ。ドキドキ感とか、どうなるのかっていう好奇心を満たしてくれるから。それにしてもあまりドラマにのめり込み過ぎると、まるで自分が主人公にでもなったような気になってしまうのは困りものだ。

 実際この映画を見ながら、私はたぶん人一倍ドキドキしていた。とりわけそんなことをしそうにない温和な妻が殺人者である夫を殺してしまうなんて。なんという展開なのだ。普通なら、夫が妻を殺しにかかる展開だと思うのだが、まるで反対。こういうこともありうるのだな。

 愛する家族が犯人だったら。とりわけ連続殺人なんていう、猟奇的かつ愉快犯的な犯罪者であることを知ってしまったら、どうするだろう。その上知ってしまったことに気づかれてしまったら?

 そう考えるとこういう展開こそがありうるリアルな話しのように思えてくる。

 映画は終わってニュースがはじまっている。

 また近所で殺人事件があったというニュース。今日も夫は出張で不在だ。私は温和な夫の顔を思い浮かべながら思った。ああいう人こそ、さっきの映画のような行動に出るのかもしれないわね。夫には絶対に悟られてはいけない。私は改めてそう思うのだった。 

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第六百二十四話_short 二人の逢瀬 [suspense(不安)]

「やっと今日がやってきたわ!」

 星野織姫子は今日という日を楽しみに一年間も待ち続けたのだ。

 夫の牛彦とは出会ってすぐにお互いに惹かれあい、早々に結婚するもまもなく夫の転勤が決まり、単身赴任してしまった。もちろん織姫子もついて行きたかったのはやまやまだが、年老いた実父が病に伏せっており、地元を離れるわけにはいかなかったのだ。 

 夫は天川自動車で販売営業を担当しているのだが、土日も出勤せねばならないほど忙しく、なかなか帰ってこれない。だが、支店長に掛け合ってようやくお休みが撮れて一年ぶりに帰って来れることになったのが今日という日なのだ。

「これじゃあまるで七夕の織姫と彦星だわ」

 朝から一仕事あってから電車に乗るということで、帰宅するのは夕方近く。織姫子は朝から家じゅうを掃除し、夫の好きなものばかりを選んで食事の準備をした。 

 四時を過ぎ、五時になり、時計の針は六時を回ってしまった。

「どうしたのかしら、遅いわね」

 待つ身は辛いっていうけれども、こういうことなのね。織姫子にとって一時間は何時間もに感じてしまう。いままで一年間も待ち続けてきたのに、今日のこの一時間がこんなに長く感じられるなんて……。

 七時前になってようやく玄関チャイムが鳴った。

 ピーンポーン。

「あなた! お帰りなさいっ!」

 玄関まで飛んでいって夫に抱きつこうとしたとき、夫の背後に別の影がいることに気がついた。夫と同じようなグレーのスーツを着た若い男だった。

「え? お友達?」

 なんで今日みたいな日にお友達がついて来るの? 織姫子はわけがわからなかった。

 夫はその男を招き入れ、玄関を上がりながら言った。

「織姫子、あのね、実はね……」

 夫の口から出た意外な言葉に、織姫子はますますわけがわからなくなった。いったい何でそんなことに? 夫はなにを考えているの? いや、考えてなどいないのかもしれない。それが夫の真実なのだ。こんなとき、きっと泣き崩れるのが普通なんだろうな。織姫子はそう思ったが、不思議とそうはならなかった。ただただ唖然とするばかりだったのだ。  

Not tobe continue

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第五百八十四話_short 見晴らしの崖 [suspense(不安)]

「ひゃあ、きれい」

 目の前に広がるパノラマ風景を見て恵子が叫んだ。

「あなたよくこんな素敵な場所を知っていたわね」

 知っていたわけじゃない。恵子を連れてくるために探したんだ。車で来れて、しかも喜ぶであろう景観の場所を必死で探した。人に尋ねるのも疑われそうで、ネットで探し回り、自分で走り回って探したんだ。そこまでやるか? 自問自答しながら、しかしこうするのが最も適切だと考えたからだ。

「でもあなたがこんなドライブに誘ってくれるなんて、意外だったわ」

 最初は喜びにあふれていて、幸せな結婚をしたと思っていた。だが、一緒に暮らしはじめ、恵子がいかにわがままで自分勝手で浪費癖のあるひどい女であったことがわかるまでにさほど時間はかからなかった。

 俺の収入のほとんどは恵子の贅沢なディナーに費やされ、それなりに貯め込んでいた貯えはおしゃれや宝石に変わった。お金がなくなると、貧乏生活は嫌だと言って離婚を言い渡されたのだ。恵子が出ていった後には恨み以外にはなにも残らなかった。

 離婚をして数ヶ月、俺は一人で悶々と暮らしたが、恵子をこのまま野放しにしてはおけないと思ったのだ。

「あなた、私のことを恨んでると思ってた。でもこんな素敵なドライブに誘ってくれるなんて」

 車を停めたのは「見晴らしの崖」と名づけられた眺望の素晴らしい場所で、こわごわ覗き込むのも腰が引けてしまうような危険な崖だ。

 「ここはね、みはらしの崖と呼ばれている秘密の場所なんだ」

 俺は言いながら恵子の背後に近づく。

「あんまりキワまで行くと危ないよ」

 そう言いながら俺は恵子の背中をトンと押した。不意に背中を押されてバランスを失った恵子が落ちていくのを眺めながら、俺はひとりごちた。

「この崖にはウラの意味もあってね……ウラミハラシの崖って言うんだがね」

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第三百九十八話_short 分かれ道 [suspense(不安)]

 人生にはいくつもの分かれ道がある。

 いくつもの分岐点でいくつもの選択を繰り返し、その繰り返しで人生が積み上がっていくのだと思う。

 あの時こうしていれば……そう思うことは度々あるのだけれども、人生はやり直せない。 

 この前見た映画では、主人公が自分自身の過去に戻れるという設定で、失敗した! と思ったらその選択をした時点までタイムトラベルしてなんどもやり直していた。 だが、映画の中ではやり直したからといってよりよい結果になるとは限らなかった。むしろせっかく出会った彼女と出会わなかったことになっていた。似たような別の映画では、やり直す度に状況はひどくなっていくのだった。

 そう考えると、選んだ道が、そしてその選択を失敗だったとおもったとしても案外よい方の道を選んでいたのかもしれないということだ。

 大きな選択ではかなり悩む。悩んだ結果選んだ道に自身が持てなかったりする。一方小さな選択では割合軽くチョイスできて、その結果がどうあれさほど気にしなかったりする。だが、大きな選択だったか小さな選択だったかというのはあくまでも主観的なあるいは情緒的な問題で、ほんとうは違っているのかもしれない。つまり、大きなと思っていた方はどうでもよくて、小さなと思っていた方がとんでもなく重大な選択だったということもありえるではないか。

 さていま僕はほんの小さな選択を迫られている。

 晩飯を食べるのに、この先の突き当たりを右に曲がるか左に曲がるかという選択だ。右に曲がれば家に向かう方向で、いつもの店があるのはわかっている。 左に曲がれば家から遠ざかり、店も知らないという未知なる選択になる。

 さあ、どっちだ? そんなものどっちに向かおうがお前の勝手だろ? たいした選択じゃないし。飯くらいどっちに向かってもいいんじゃないか? そう言われそうだ。

 そうだよね。自分自身で納得しながら歩いていると、その分岐点にやってきた。ええい、今日は未知なる方向へ! ほとんどとっさに僕は角を左に折れた。そのとき、暴走トラックが左から突っ込んできたのだった。  

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第三百六十四話_short 怪しい男 [suspense(不安)]

「マンションの正面にいつも男が立って監視されているようなんです」

 警察に電話をしたが、取り立てて実害が発生していないうちは事件として扱えないので、なんともしがたいらしい。

「わかりました。管轄に言って注意するように伝えておきます」

 警察はそうは言うが、ほんとうにたよりになるのかどうかわからない。

 マンションの満前に、いつも一人の男が佇んでこっちを見ているのだ。その視線が向けられているのは二階に位置する私の部屋の窓に違いないのだ。 男はいつも同じ服を着ているので同じ人物だとは主のだが、日によっては体格が微妙に違っていたりして定かではない。しかし、同じ服装の男にいつも監視されているという感じはなんとも気持ちの悪いものだ。

 何度も警察に電話をし続けて、ようやく何度目かに「一度、管轄の警官に様子を見に行かせましょう」と言ってくれた。

 窓から外を覗くと、あの男がいなくなっている。そんなときに限って警官が訪ねてくるのだ。窓外にいなければ確認してもらえない。

 ピーンポーン。

 玄関チャイムが鳴った。ああ、お巡りさんが来てくれたのだと思って玄関を開ける。すると、あの男があの服装で立っているではないか。

「こんばんは。本署から申し使って様子を身に来ましたが、いかがですか?」

 おまわりさんはにこやかながらも心配そうに言った。

「でも大丈夫ですよ奥さん、ちょうどマンションの目の前が派出所ですから。私らがいつでも監視していますのでね」 

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第三百二十三話_short はじめての冒険~黄色いクマの言葉④ [suspense(不安)]

「きみを見たときに、冒険が始まるってわかってたよ」

 言うと、奴は振り返りもせずに答えた。

「そうか、よかったな」

 ちょっとは嬉しそうにしてくれるのかなと思っていた俺は、少しがっかりしてまた言った。

「だってさ、俺みたいな者がこんなところにいるなんてさ……」

 ようやく奴は振り向いてしかし恐い顔を一層引きつらせて言った。

「おめぇ、おしゃべりだな。恐いのか?」

「恐い? とんでもない。むしろワクワクしているくらいで」

「だったら、黙って役割を果たせ。それともなにか? 逃げ出したいのか?」

 逃げ出したい? 正直言うとそうかもしれない。ほんとうはこんなことしたくないような気がする。

「冒険だって? おもしれえ奴だなおめえは。しかしこれは冒険じゃない、金だ」

「ま、まぁ……そうなんだけどさ」

「おめえがそう思った方がやりやすいんならそれはいいが……許さんぞ、いまさら逃げ出そうなんてな」 

「逃げ出すなんて、そ、そんな……」

 俺が言い終わらないうちに奴が制した。

「しっ! ほら、目指し帽で顔を隠すんだ! 行くぞ!」

 俺たちはそれぞれ改造モデルガンと登山ナイフを手に、終業間近でひと気が少なくなった銀行の入口に飛び込んだ。 

                      了

                                            (クマのプーさんの言葉より)  

 

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第二百六十三話_short お手伝い [suspense(不安)]

「すみませーん、ちょっと手伝ってもらえませんかぁ?」

 コンビニ店で山盛りの商品を入れたカゴを両手に提げた女性が声をかけてきた。彼女は実年齢より少し若づくりではないのかなと思える可愛い女の子だ。客は俺達しかいない。もちろん俺は自分の買い物を中断して手を貸した。

「カゴをひとつ持てばいいの? そっちも持とうか?」

「あはっ。いいんですかぁ? すみませぇん」

 頭の先から出しているような声は心地よく響く。俺は思わずもっと何かできることはないのかなと思いながら彼女のカゴを両方手に下げた。レジに運べばいいのかなと思っていたら、彼女はさらにもうひとつカゴを取ってまたしてもお菓子や雑貨を入れはじめた。

「これ、レジに預けておこうか?」

 言うと、

「あら、そんなことしたら邪魔になるでしょう? だからあなたが持っててくださる?」

 なるほど、そうか。仕方がないので俺は両手にカゴを下げたまま彼女の後ろをついてまわった。カゴがいっぱいになるとようやくレジに向かった彼女が店員に声をかけた。

「すみませぇん、これ、重いの。手伝ってくださらない?」

 深夜のことであり、コンビニ店員は一人だけだ。店員は商品でいっぱいになった彼女の姿を見て、これは大変そうだと思ったのだろう、レジから出てきて彼女のカゴを両手で抱えた。そして彼女がなにかを囁くと、店員はにわかに顔色を変えて両手にカゴを抱えたまま彼女と共にレジに入り、レジから金を取り出しはじめた。

 俺はなにが起きているのかわからないまま様子をうかがっていたのだが、金を奪った彼女の手にはどこから取り出したのか大ぶりのナイフが握られていて、それを店員に押しつけて脅していたらしい。

「レジから金を出しな」

 とか言ったのだろう。

 彼女がいきなり叫んだ。

「おい! 逃げるぞ!」

 店員はしょせんアルバイトだ。腰を抜かしたのか、どうすればよいのかわからないままレジの中に佇んで俺が逃げるのを茫然と眺めていた。

 俺は一瞬なにが起きたかと思ったが、逃げなければと思った。両手に持っていたカゴをあたふたと通路に置いて、彼女の言葉に従った。

そしてコンビニの自動扉を飛び出した俺はというと、彼女の姿を見失っていた。

「共犯」

 そんな言葉が頭に浮かんで、俺は必死に逃げた。もうあのコンビニには行けないなと思いながら。

                          了

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第二百四十六話_short 刺し傷 [suspense(不安)]

「どうしてあんなことをしたんだ?」

 昔の刑事モノドラマに出てくるゴリさんに少しだけ似ている、いかにもという感じの刑事が感情を押し殺して言った。だが、なんと答えたらいいのかわからない。

「しかもあんな山の中で……お前があんなところに誘い出したんだろう?」

「ち、違います!」

 なんとかそれだけ答えた。

「じゃぁ、ガイシャの方から誘ってきたというのか? 無残に体中を刺されるために?」

 信じてもらえるかどうかわからないが、ほんとうのことを伝えなければ。私はそう思ってなんとか唇を動かすことを決意した。

 美夏と私は親友だ。いつも一緒にいて、どんなことでも相談し合う。休日には、デートがない限りは一緒に映画を見たり、時にはハイキングに出かける。

 あの日はとてもさわやかなお天気だった。たまには身体を動かしたいね、なんて言い合っていた私たちは、近所の山にハイキングに出かけることにした。以前みんなで出かけたことのある山なので、気楽な気持ちで出かけることができた。

 とても低い山だから二時間もかからずに頂上にたどり着くことができる。私たちは緑が放つなんともいえない心地よい空気を胸いっぱい吸い込みながら歩き、頂上でお弁当を食べた。しばらく休憩してからそろそろと下りはじめたのだが、坂道の途中で美夏が足の痛さを訴えはじめた。

「靴ずれが……新しい靴なんか履くんじゃなかった」

 とても痛そうにしている美夏を励ましながら私はあることを思い出していた。

 人間は身体のどこかに違和感を感じたらそればかりが気になってその違和感はますます増長してしまう。たとえば身体のどこかが痒いとき、掻いたりするからますます痒くなる。歯が痛いと思ったら舌の先でその歯を撫でまわし、ますます痛みを感じてしまう。つまり、自分で自分をいじめてしまうのだ。だとすると、意識をどこかほかの場所に移せば、もともとの違和感は忘れられるということなのだ。

「美夏、大丈夫? 歩けないの?」

「うん、歩くとますます痛い」

「わかった。私、いい方法を知ってるの。足が痛くないようにしてあげる」

「ほ、ほんと?」

 私はお弁当の後にフルーツを食べるときに使ったフルーツナイフをナップサックから取り出し、美夏の腕を刺した。

「い、痛い!」

「あ、ごめん。でも、こうすればほら、足の痛みが消えたんじゃない?」

「えっ? あ、ほんとだ。足が痛くない……でも今度は腕が痛い」

 なるほど。そりゃそうだ。私は少し考えた。

「じゃぁ、こうするわ」

 今度は美夏の肩にナイフを突き刺した。

「痛い! でも今度は肩が……」

「それなら、ここは?」

 今度は美夏のお腹、お尻、腿、腰、胸、美夏が痛いという度に場所を変えて次々と刺していった。

「わ、私もう……」

 全身血だらけになって気を失っている美夏を見つけて私はようやく自分が何をしたのかと思った。私はただ、美夏の痛みを取り除いてあげたかっただけなのに。

「そう、私は美夏の痛みを忘れさせてあげたかっただけなんです!」

 私の話を聞いていた刑事は大きく頷きながら微笑んだ。

「なるほど、よおくわかった。君は彼女を助けたかっただけなんだな。親友への愛だったというわけだ……なんて訳がねえだろ!」

 刑事は両手で机をドンと叩きつけた。

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