So-net無料ブログ作成
検索選択

第七百八十話_short番外 びよ~ん [literary(文学)]

 もう、三日間もここにいる。

 なにもない真っ白な部屋。白い壁と白い床、天井。家具もテレビもない。誰もいないし、誰もこない。

 ここは病院? いや、病院なら医者や看護婦がいるはずだし、なんとなく昔からなじみのある臭いがする。たぶん私が暮らしてきた部屋だと思う。でも、なにもないし、誰もいないのだ。不思議と原も空かないし、便意もない。いったいどうなちゃったんだろう。不安になって眠くなる。いつしか眠ってしまうと不安は消えてしまうが、記憶もあいまいになる。

 たしか……三日前に真っ白な空間を浮遊していたような。

 そうだ。なにかが終わってしまったのだ。

 自分から終わらせたのではなくって、私の意思とは無関係に終わってしまったのだ。だから私は真っ白な世界に堕ち込んでしまい、私自身も真っ白になってしまった。

 私が終わったのではなくって、世界が終って世界が私を終わらせようとしているのだ。

 ……世界が私を終わらせようとしている? 私の意思とは関係なく? 

 それでいい、それで当然だと思っていた。だってどう仕様もないでしょう? 世界がなくなってしまったんだから。私がいる場所もなくなってしまったということで。あれ? でも私はまだいなくなっていないのはなぜ?

 人間はいつもなにかの枠の中で生きている。

 そう、たとえば地球の、アジアの、日本の、この街の、この社会の、この家の中で生きている。ということは、逆にいえばいまこの枠の中でしか生きられていないということだ。

 置かれた場所で咲きなさい。

 誰かがそう言ったけれども、置かれた場所でしか生きられない。

 日本にいるのにアメリカにいるようには生きられない。

 だから私はいつも誰かの、なにかのせいにして生きてきた。

 いいことや楽しいことは自分で求めているくせに、悪いことや辛いことはぜんぶなにかのせいにして、誰かのせいにして生きてきた。だから今回のこれも、世界がこんなことになっちゃったから、仕方がなく私も消えてしまう、なんてね。

 でもなんだかわかってきたような気がする。

 世界がなくなってしまった今、私は無の世界のせいで生きられなくなっている? 違う。生きている。

 誰かのせいじゃなく、なにかのせいじゃなく、私自身の意思で、力で、考えで、反対に世界を作ってしまえるんじゃあないかしら。

 この白い世界にはなにもないと思っているけれど、本当にそうなのかしら?

 自分自身で、こうあってほしい! こうありたい! そう信念を持つだけで、もしかしたら、なにかが見えてくるのかもしれない。誰かのせいでも、なにかのせいでもなく、自分自身で。

 私は思い切り体を千路メタ。膝を曲げ、腰を折って、できる限り渾身の力が体内に集まるような姿勢をとって身体の真ん中に力を集中させた。そして全身をばねにして飛び上がるのだ。そうすればきっと、白い世界からジャンプできるに違いないとそう信じて。

 びよ~ん! 

 バネ.jpg

                      了


↓このアイコンクリックしてくれると、とてもウレシイm(_ _)m

                
          ショートショート ブログランキングへ


nice!(6)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

第七百七十九話_short番外 ホワイトアウト [literary(文学)]

 もしかしたらここは、天国? それとも地獄? 

 なにもない、何も存在しない空間にふわふわ浮かんでいるように感じられる。そう、壁も、天井も、地面さえないから立っていられないのだ。宇宙遊泳ってこんな感じなんだろうな、きっと。

 実優はなにもないところをふわふわしながらぼんやりと考えていた。

 天国か地獄かって言えば……全然苦しくも怖くもないからここはたぶん地獄なんかじゃない。でもお花畑もないし天使もいないから天国でもないんだわ。

 真っ暗な部屋を経験したことはあるけれども、こんな真っ白な世界ははじめてだ。スキー場で白銀の世界を見たことはあって、それと少しだけ似てはいるけれども、それとも違う。ほんとうに真っ白なんだ。

 おととい南へ南へと歩き続けていたら唐突にこういうことになった。なにもなくなってしまって、近くにも遠くにもなにもなくなって、いったいどうなったのかしらと思った。でもすぐに、ああ、物語りが終わったのだと悟った。

 最後の物語りでは誰かと一緒に逃げるはずだったのに……ああ、あの人は誰だったのかしら? 名前も顔も思い出せない。でも、なんだか大切な人だったような気もする。でも、思い出せないくらいだからそれほどでもなかったんだわ、きっと。

 実優はぼんやりしながらも頭の中では様々な妄想めいたイメージや言葉が浮かんでは消える。

 私、死んでしまったのかな? 

 物語が終わるということは、その登場人物も終わってしまう、つまり死んでしまうってことなんじゃないの? じゃぁ、ここにいる私はなに? 生きているとしか思えないし。

 どうして世界と一緒に消えてしまわなかったのか、実優には理解できなかった。こんななにもない世界で一人っきりで生きていくくらいなら、みんなと一緒に消えてしまった方がよかったのに。それとも? いまから少しずつ消えていくのかな? いつか見た映画のように、身体がだんだん透明になって、この白い世界の中に溶け込んでいくのかもしれないな。

 何度も同じようなことばかり考えていて、どのくらい時間が過ぎたのかさえ分からない。数分七日、数時間なのか、もしかして数日? 数か月? 知らないうちに何年も過ぎてしまったのかもしれない。そう思うと少し怖いような気持になりかけたが、本当は怖くも恐ろしくも、悲しくも寂しくもない。反対に楽しくも面白くもないのだけれど。

 たぶんすべての物事を受け入れて達観した状態ってこんな感じなんだろう。別に死んでもいいし、死ななくてもいい。かつて楽しいことや辛いことがあったなんてことも、もはやどうでもよくて。ただここにいるというそれだけのこと。消えてしまうかもしれないし、消えてしまわないのかもしれないし。

 これが悟り? 悟りだとすればそれは新たな世界のはじまりなのか、それとも終わりなのか。

 実優は自分が何年生きてきたのか、若いのか老人だったのか、それさえもわからなくなって、ただふわふわと空中を漂うばかりなのだった。

白い世界.jpg   

                      了


↓このアイコンクリックしてくれると、とてもウレシイm(_ _)m

                
          ショートショート ブログランキングへ


nice!(3)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

第七百七十八話_short番外 希望 [literary(文学)]

 

 

 

 

 あれ? なんだここは?

 

 

 気がつくと僕は知らない場所に立っていた。知らない場所?

 

 

 いや、そうではない。ここは、見たこともないところだ。

 

 

 まっ白。

 

 敢えて言うなら白壁に囲まれた空間。でも、白い壁があるわけではない。白い空間はどこまでも続いている。

 

 

 さっきまであった道や木々や空はどこに行ってしまったんだ? なんなのだ、ここは。

 

 

 僕はだんだん怖くなってきた。なにもない。そして誰もいない空間。なぜ僕だけがここにいるのか。

 

 

 思い出した。僕はとんでもなく遅刻したのだ。おととい、まるで三月ウサギのように駆けずり回っていた僕は、大事な最終話に遅れてしまったのだ。 

 

 

 そうか。ここはそれが終わった場所なのだ。 そういえば昔、映画で見たような気がする。お芝居が終わってしまってすべてが撤去された空舞台。

 

 空舞台であれば、大道具はなくなってしまっても、舞台そのものはなくなってしまわないはずなのに、ここは大道具どころかすべての存在が無になってしまっている。つまり、世界そのものが消えてしまったのだ。

 やはり本当だったのだ。千一話物語りが終わってしまったということは。

 

 僕は昨日、実優と出会うはずだったのだ。彼女とともに最後の時間を演じるはずだった。だが間に合わなかった。たぶん、実優は一人でどこかへ旅にでも言ってしまったことだろう。寂しいと思っただろうか。それとも僕の存在などなかったかのようにふるまったのだろうか。

 大切な最後のステージに乗り遅れたばかりに、僕はこの無の世界に取り残されてしまったのだ。

 だが、仮に間に合っていたとすれば? どうなっていたのだろう。少なくともここに取り残されたりはしなかっただろうが、消えてしまった世界とともに消滅したに違いない。

 さあどうするか。僕は頭を抱え込んでしまった。

 想像してみるがいい。なにもない、誰もいない世界にただ一人存在しているということを。

 これは生きているということなのか? それとも死んでいる? いやいや、少なくとも僕は生きている。周囲が死んでしまった? いや、消えてしまっただけ。壁もないのに目の前は真っ白。暗闇じゃないだけましだとも言えるが、しかし真っ暗闇と真っ白い世界と、何が違うというのだ?

 なにもないからかなり遠くまで見えているはずなのだけれども、ただただ白いだけでなにも見えない。もし何かがあったら、誰かがいたら影くらいはわかるはずなのに。

 僕はどうしようもなく歩きはじめた。

 歩いても歩いても白いばかりで、前に進んでいる気がしない。でもなにもない白い地面を歩いていることは実感できているので、たぶん歩み進んでいるのだと思う。どこまで行けば、どのくらい歩けばなにかが変化するのだろうか。

 僕は前に進むことできっと何か変化が訪れるに違いないと信じて、とにかく歩き続けた。いつかまたこの世界が現れるに違いないという微かな望みだけを抱いて。 

白い世界.jpg  

                      了


↓このアイコンクリックしてくれると、とてもウレシイm(_ _)m

                
          ショートショート ブログランキングへ


nice!(4)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。

×

この広告は1年以上新しい記事の更新がないブログに表示されております。